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天狗 ~神眠る森~  作者: 東雲 景惚
怒涛邁進
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98/100

青天の霹靂〜火中の栗③〜

 鬢胡の第一皇女であるセレーナは、結婚式のために初めて結城の王太子が現れた時、この世の中にこれほどまでに美しい男性がいるのかと腰が抜けそうになった。セレーナも整った顔をしてはいるものの、華やかさには一つ足りないと言った顔をしている。そんな自分の顔がセレーナは嫌で仕方ない。何かの気まぐれでお手付きになり、身籠った母が美の女神にあやかって付けてくれた名前だが、完全に名前だけだと思っていたからだ。

 しかし、ガゼボで王太子に同じ月の名前だと言われた時、こんなにセレーナという名前を付けてくれた母に感謝したことはなかった。

 庭園で王太子に出会った時、思い切って話しかけたセレーナは、物腰が柔らかく所作全てが美しい王太子が益々恋焦がれる対象となり、一人舞がっている。だから結城王室が一夫一妻で、王太子には既に妃がいると知って落ち込んだが、今だけでも側にいたいと、知っていることや伝え聞いたことを全て王太子に伝えた。


この庭は、父陛下が正妃を迎えるために10年程前に作らせたものであること

その女性との縁談は断られたようなのに、ここ1年くらいで更に庭園を拡大したこと


王太子は、鬢胡のゴシップのような話にふ〜んというような生返事で応えるがそれもまた素敵だとセレーナはときめいた。

毎日話していると王太子から「公主」と呼ばれていたのだが、特別に呼ばれたくて「セレーナ姫」と呼んでもらうように願い出た。王太子は驚いた顔をしていたが快く受け入れてくれた。セレーナは「王太子様」と呼んでいたのだが、釣り合わないということになり…生まれながら王嫡であった身の上であるし、あまり結城の王族は真名を呼び合わないとも聞くし…と悩んでいると

「あまみつ…」

幼い頃、待望の王子が生まれ喜んだ母后が欠けることのない満月という意味で「天満月」から「あまみつ」と呼んでいたエピソードを話してくれたので、「ミツ様」と呼ぶことになった。

セレーナは、ミツ様に伝え聞いた話を毎日話した。

その中で

末姫が結城で保護されたらしい

という情報を聞いた。

まさか、この通達を他の誰でもない庭園ガゼボ仲間のセレーナ姫から聞くことになるなど王太子が一番思わなかっただろう。ひた隠しにされているとしか思えなかったが、勇気をもって皇帝に確認に行ったのに返り討ちにされたということなのだ。


懲りないセレーナは、更に情報を王太子に渡す。


父陛下は、末姫を鬢胡に戻すことよりもミツ様のお姉様である第二王女様を皇后にと打診たれたようです。



王太子はかなり驚いた。仲の姉上は竜見でほとんど隠居生活をしているに近いと聞いている。王太子ですら10年以上会っていない。皇帝は四十を過ぎるかどうかといった歳であろう。姉は確か二十八になっただろうか…。一回り違う姉を皇后に?突然過ぎる…と混乱していると、不意に庭園の花が目に止まった。クレマチスの蔓が一面に張り色とりどりの花を咲かせている。芍薬も大輪の花を付けている。

セレーナが言っていた皇后を迎えるために作られた庭園…。花は仲姫の象徴でありクレマチスの花言葉「精神の美」と芍薬の花言葉「慎ましさ」いうのが妙に引っかかった。なんとなく仲姫のことを表しているような気がしたからだ。色のないこの国に明らかに異質なこの庭園…

10年程前に作られた庭園…。仲姫が嫁ぐことなく結城に戻ってきた時期と重なる。


皇帝は、最初から仲の姉上をお望みだったか…


流石の、王太子でも、気がついた。そして、この拗れた執拗な交渉の人質に、王太子がなってしまっていることに血の気が引いた。






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