晴天の霹靂〜火中の栗①〜
森の鎮火が確認できるまではと、朝方までおセンは村にいてから竜見の城へと向かった。寺子屋は臨時で休みした。妹が心配だと伝えると女将が了解してくれてほかの家にも伝えてくれるそうだ。
城へ着くと、彪比古からもう少し詳しく話を聞くことにした。怪しまれないように彪比古とヒロマサは先に出立しており、彪比古は彪比古で鬢胡付近の森が燃えていたことに驚き、ヒロマサから推察を聞いていた。
「鬢胡は大丈夫なんだろうか…。なぜ王太子様は帰ってこないのか…。」
今回の無理な要求といい、鬢胡に何か異変が起きている。それは間違いなかったが、王太子が帰ってこない以上抵抗すらしづらいのが現状である。悩んでいるところに、おセンがやって来た。
彪比古の話によると、鬢胡の皇帝陛下の直筆の書状が届いたらしい。
言葉を選びながら彪比古は説明をする。
この騒動で末姫がどんな目にあったのかわからない。そんな思いをした姫君を再びこの地に迎えるのも可哀想なことであるので…。代わりにと言うらしい。
つまり…
「傷物になったかもしれない姫君を貰い受けるより、傷物にもならなかった姫君を貰ったほうがいいということなのかしら…」
とおセン自ら言い放った。呆れたような顔をしながら。
もともと、10年以上前になるが、おセンは鬢胡の国の皇帝がまだ王太子であった頃に何度か会っている。結城に訪れた若かりし皇帝は、美しく聡明な仲姫をいつでも凝視していた。既に皇太子妃が御子を産んでいたのに、ギラついた目で見られていたことを思い出した。もしかしたらその頃には皇太子妃は既に体調を崩していたのかもしれない。しかし、側妃が既に複数いたことを記憶している。皇太子妃や御子のことを考えれば特に国外では大人しく振る舞うものだと思うが、王族への挨拶をするとき、おセンに触れそうなほど近くに寄ってきたことを思い出すと今でも鳥肌が立つ。それでも外交だと思えば、やんわりと交わしていたあの10代の自分が誇らしくすらある。
「父から聞いた話ですが…」
言うのを躊躇いながら彪比古が続ける。
「おセン様がこちらで静養されるようになって、すぐに鬢胡に皇后でむかえたいという話はきていたらしいのです。静養中であるからお断りになったそうですが…。」
彪比古ももちろん、皇太子時代のおセンはの行動を間近で見てきた一人として、これだけはないと言った顔をした。
「しかしなぁ…。末姫さんを返してもらっておしまいってそうも言ってられないだろ…両国の友好のための結婚だったんだろ?何か対策はないのか。」
ヒロマサは、至極当たり前のことを言った。確かに今回の婚姻はいままできちんと国交を持っていなかった両国のかけ渡しの意味がある。それを事件が起きたからと撤退したら、今まで鬢胡との関係を築いてきた臣下に申し訳ないとおセンは思った。俯いていると
「おいおい、決しておひいさんに嫁に行けなんて言ってないんだぞ。引退したとはいえ俺だって本山の兵だった男だ。王族の一人や二人守ってやるから安心しろ。っておひいさんは強かったな。」
とヒロマサが言うと、少し笑って
「そうですね。この関係が決裂した場合攻め入られても仕方がないということになってしまいます。何よりも今…王太子…弟が帰ってきていないことが問題です。私を娶るために人質になっているとしたら由々しき問題です。」
そもそも、この結婚が仲姫をおびき寄せるためのものだったとしたらと考えると怖くなった。末姫も手に入れてから、例えば具合が悪くなったといっても結城からの連絡を仲姫でないと受け付けないとして、名代に立たせてそのまま…。ということも考えられたということだ。優柔不断な弟がこの混乱の中、いればいるほど出にくくなるのに待機しているのかと思うとそれも心配でならない。
仮にも次世代を背負って立つはずの弟である。女だからと母后からの愛をさほどもらえずにいた自分とは違うのである。だからこそ、弟には絶対に戻って王になってもらわないと気が済まないのであった。




