巷説喧騒〜煙の出所⑤〜
寝宮の森が燃えている。そんなことがはたしてあるのか、慌てておセンとヒロマサ、仕えのクシは近くの高台に上がる。森から数十、百の鳥が飛んで行って村側は全く異変はないが…とても遠く、西南の方面に煙が見える。クシはどこから出したのか、折り畳み式の望遠鏡を広げておセンに渡した。
「確かに森が燃えていますね…ただ、境目あたりでしょうか…何とも言えませんが。」
おセンは目を凝らしながら望遠鏡を見ながら言った。ヒロマサは、代われと望遠鏡を手で催促し目を凝らしてみた。
「おお!よく見えるな…でも煙までの木々が邪魔でよくわからんが…あの距離だったら結構な煙なんじゃないか。あれは…どの国のあたりだ。」
そういうヒロマサに、おセンは軽いため息をついて言う。
「あれは…おそらく鬢胡です。」
その言葉に、ヒロマサは驚いておセンを見る。おセンは黙って頷いた。
「これは、何かが起きるということかしら。きっと…妹も見てしまっているわ。」
そう言うと頭を抱えてしまった。
※※※
竜見の城から不気味な鳥の鳴き声が地鳴りのようにして、窓を眺めた末姫はもちろん煙を見た。おそらく自分が森に連れられて行った当たりが燃えていることもなんとなく方向で分かった。
あれは、キーチの仲間がやったのか、それとも鬢胡が報復で行ったのか…。
不安が募る末姫はふと、兄である王太子がどうなったのか気になった。末姫が行方不明になってから自分の行方不明を伝えてからずっと音信不通らしい。人の噂に敏感に過ごしてきた末姫だからこそ、回復してきてから兄の話が全く出てこないことに違和感を覚えたのだ。まさか、報復としてあの火事に巻き込まれているとしたら…いやいやそんなことあるはずがないと思った。きっと末姫が無事に見つかったことが鬢胡に知られ、交渉のための言わば人質のようになってしまったのかもしれない。
末姫は、自分のせいではないにしても申し訳ないと思う反面、何故もっと早く帰国をしなかったのか王太子の行動力のなさに腹正しさを覚えた。捕らわれた末姫が走って帰ってくる時間も休養する日数もあったのに、おそらく王太子はまだ鬢胡にいる。まるで、王太子が捕らわれの身のようだ。
「可哀そうなお兄様…」
末姫は、小さくつぶやいた。
※※※
一方、竜見の村のおセンとヒロマサは、鳥が空を埋め尽くすように飛び出て不安がる村人たちを招集し、風の向き、間にある竜見川の存在、距離を考えて火事はおそらくこちらにこないこと、鎮火が近いことをなどを村長宅前の広場で話をし、安堵させた。
実際、高台でしばらく二人は煙の様子を見ていたが広がる様子はなかった。おそらく火事ではなく爆発であると推測された。黒い煙は時間がたつにつれ薄くなっていっているように見えた。
ただし、万が一に備えて貯水池の水の確認と竜見川からの水の確保、もしも火の粉や灰が飛んできた時のために、いらない布を濡らして屋根にかけるための準備をしておくことが望ましいという話をした。
村人たちは大慌てで準備をし、終わったころにはもう日がどっぷり暮れて、お腹がすいたと子供たちが言っていた。それを見越したかのように、旅館の女将がみんなにおにぎりとスープの差し入れをしてくれた。老人の家には、青年団が率先して向かい、準備をしていた。ヒロマサは、なんと暖かく統率の取れた村なのだと感心していた。これが、おセンが作った村で信じているものなのかとおにぎりを食べながら思った。
女将が、お客だからと今更だが食堂に案内してくれて、おセンと座って今の状況について話をしていると、馬のいななく声が聴こえた。
「あれは、チユの声です。」
そういうとおセンは慌てて出ていく。彪比古は本山にいるはずなのに…と不思議がりながらヒロマサも外に出ると確かに彪比古だった。しかも、あまりに険しい顔をしている。
何かを悟ったおセンは、ヒロマサと彪比古をおセンの家に案内した。
中に入るとすぐに、彪比古は膝をつき、おセンに向かって震える声で言った。
「鬢胡から返事がありました。今回の件で、皇太子と第四王女との婚姻は白紙に戻しても構わないそうですが、条件が一つ…第二王女…おセン様を皇帝陛下の皇后に迎えたいそうです。」
おセンとヒロマサは考えてもいない要求に呆然としたのだった。




