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天狗 ~神眠る森~  作者: 東雲 景惚
諸行無常
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94/100

巷説喧騒〜煙の出所④〜

 部屋でゴロゴロするのも性に合わないため、少し散策することにしたヒロマサは、まず仲姫の家に行ってみることにした。少し細い道を行くと白っぽいレンガの家が見えた。脇には広めのジェットがあり、あぁここで勉学を教えているのかとヒロマサは眺めた。家屋の奥は広々としているようだから畑もやっているのかと推測した。母后にあれほど手を酷使するなど怒られ、嫌味を言われ、レイピアを握る時間も徹底していたのに今はクワを持っているのか…となんだか変な気持ちだった。

 少し歩いて村の奥の白い屋根の家に着いた。今は誰もいないが、小公爵夫婦の別邸である。彪比古にしてはなんと可愛らしい外装…とも思ったが、あの仲姫に熱狂的な御夫人が喜びそうだな…と思った。


 最後に西側に向かって歩いた。森との境である。鬱蒼としてはいるが、なんとなく通れそうな獣道のような部分が分かった。


 日頃から森に出入りしている人がいるのか…


アズマでは、禁忌として未だに語られる聖域も、地方に行くとそうでもない場合がある。

現にヒロマサはアズマより東側にある村の出身だが、森の話なんて、でっかい森がある…くらいにしか理解せずアズマに来てから、聖域なのだと先輩兵から聞いた。 

中に入るべきか悩んでみたが、突如宿屋に泊まっている老人が森に入ったら不審がられるかと人通りがある時間はやめようと思った。ただ、森のあたりを行ったり来たりしていると、馬蹄が聞こえたような気がして振り返ると黒い影が見えたので旅館へ急いだ。


 ヒロマサが旅館に到着する頃、馬小屋から颯爽と現れたのは、10年前より生き生きしている愛弟子だった。

「いろんなことできるとは思っていましたが、今も乗りこなせるんですね〜。」

そう声をかけられ、パッと愛弟子は振り返って驚きよりも嬉しそうな顔をして駆け寄ってきた。

「お師匠!本当に?うわぁ…お懐かしい。お会いしとうございました。」

あの頃と変わらない美しい笑顔だったが、ヒロマサは昔よりも更に美しく感じた。

仲姫ことおセンはそのまま、ヒロマサを家へ連れて行った。家にはあの頃も仕えていた女官が女中として侍っているようで、ヒロマサに気が付き深々とお辞儀をした。

おセンが手慣れた手つきで淹れてくれたお茶を飲むとなんだかとても美味く感じた。表情で分かったのかおセンも嬉しそうにお茶を飲んだ。

「でだ。おセン…と呼べばいいのかい?」

ヒロマサがそう言うとおセンは頷く。

「勿論です。お師匠。私は…お師匠のままでも?」

と首を傾げるおセンに何の師匠っていう気なんだとヒロマサは突っ込む。

「確かに…。商家の娘が剣術は習わないですね…」

と言うと

「いやいや、王女様だって習わないけどな普通。」

とツッコミ2人で笑った。

話をした結果、護身術を習っていたことにして、師匠と呼んだほうがいいのではないかということになった。

「初めてあやひ…アヤさんとここで会って…その後お師匠に偶然会ったことを聞いたのです。妹たちにも会えましたし、いつかお会いできるんではないかと思っていたのです。」

おセンの話にそういうものかと思ったが、

「ただおセンに会いたくてって呑気な話じゃなくて申し訳ないな…。アヤから頼まれごとをしてここに来たんだよ。」

ヒロマサがそう言うと、おセンは顔をあげてヒロマサをじっと見た。

「お調べになるのでしょうか。竜見を。」

そう聞くおセンは、王女としてのオーラが出ていた。

「まぁ…そうだな。いい人たち何だろ?おセンがこれだけ尽くしてる村だもんな。」

ヒロマサはおセンをちゃんと見て言った。

「はい。今ここに私が生きていられるのは、この村の人たちがいたからです。」

見つめ合ったまま、沈黙が続いていると村の方が騒がしくなった。

慌ててドアから現れたおセンの女官、クシが二人に告げる、

「森が…寝宮の森が…火事のようです。」

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