巷説喧騒〜煙の出所③〜
数日の間にヒロマサは、旅の準備をした。妻のハルに事情があってしばらく留守をしなくてはならないことを伝えた。勤めが終わってからこんなことは初めてのことだったので、ハルはイロイロと勘ぐったように見えたが、ヒロマサの真剣で深くは言えないような…。現役の時、どこに出征するか言えずただ見つめられた時のことを思い出し、余程のことなのだろうと頷いてくれた。
彪比古が最初馬車を用意しようとしていたが、腐っても兵士、年老いたとはいえお貴族様みたいに馬車なんて…と彪比古を二重の意味で困惑させたが馬をお願いした。公爵家の手配してくれた上等な馬だが、ケガをして以来乗っていないためあまり走らせず数日宿を取ったり野営したりしながら適度に急ぎながら進んだ。
竜見領は、小さな王室直轄地で高台にある竜見の城の下にいくつか村があるだけ…南に行けば辺境伯が治める国境となる。というか、寝宮の森に沿った場所はほとんど王室が管理している。
竜見は森に沿った西南の国境に近い場所だ。
そう考えると、仲姫が逃げ帰ってきたのも、末姫が寝宮の森から逃げ出して来た場所も竜見というのは至極当然なのか…。それとも…。
などと考えていると、一番西側…森に近い村に着いた。彪比古の話だとここの一番奥の白い大きな家で仲姫は暮らしているという。
とりあえず宿を見つけ部屋を借りることにした。フロントに出てきたのは、30に手が届くか…というような女性だった。馬小屋の案内も部屋や食堂の説明の仕方も初めて会ったのに既視感があった。無事部屋を借りてからヒロマサが尋ねた。
「もしかして…貴女がセツさん?」
見ず知らずの老人に突然名前を言われたから、一瞬強張ったように見えたが、流石客商売のプロ。にこやかに頷いた。
「やっぱり!私はね、アズマから来たんだけれど『古都』の馴染みでね。あっちの女将のヤヨイさんによくしてもらっているんだよ。」
と言うと、明らかに安堵したように見えた。やっぱりそこは姉妹だなとヒロマサは思う。
「お客様…そうですか。ヤヨイの…それはそれはいつも妹の店をご贔屓してきただきありがとう存じます。」
とにこやかに言う。
「しかも、こっちの馴染みのアヤからここの食事が美味いって聞いてたから楽しみでね〜。」
そう言うと、更にぐいぐい話をし始める。
「あららお客様、アヤさんとお知り合い?言ってくださいよ。」
と嬉しそうに女将は部屋に案内してくれた。彪比古はあれだけの美丈夫だし、品があるが社交的…。人気なのも頷ける。
「この村におセンもいるって聞いてるんだが…」
とヒロマサは言うと女将の出方を見る。
「あ〜そっか。アヤさんと知り合いってことは昔なじみの先生とも知り合いってことなのね。いますよいます。あ〜でも今日は寺子屋がお休みだから昨日から妹さんのどこにお見舞いに行ってるんですよ。うちの馬小屋に馬がいなかったからまだ帰ってないけれど…きっと暗くならないうちに帰ってくるのでもうすぐ帰ってきますよ。」
妹効果よりも彪比古効果が絶大でペラペラ離してくれるようになった。
小綺麗な部屋に通されて、顔は似ているといえば似ているが、商売魂の似ている姉妹を脳内で比べて笑いがこみ上げてくるのだった。




