巷説喧騒〜煙の出所②〜
彪比古とヒロマサは密談を二日行った後散り散りになった。彪比古は鬢胡との外交フォローや王太子の帰国の算段など、公爵家の人間としてしなくてはならなかったからだ。そこで、情報漏洩がないかどうか確認してくることになっている。
一方、ヒロマサは喫茶「古都」での偵察はするものの、毎日入り浸っていては、流石に何かあるのかと勘ぐられてしまうため翌日だけ一日中店内にいた。
女将は
「この頃ヒロさん一日中いてくれるから嬉しいわ〜」
とケーキのメニューを勧めてくる。苦笑いしながらお腹を指さし手を横に振った。もう年だから食べすぎるなと妻に言われていると言うと、お土産買えばと勧めてくるのだから商売魂とはすごいなぁと思った。
今日はいつもの定位置の本山のよく見える窓側の席に座って珈琲を啜りながら皆の動向を見ていた。
長く居座る客も多いため判断は難しいが、ヒロマサが常連客と認めているのは、ヒロマサが通い始めた頃から共に珈琲仲間のシユマ。近くの問屋を営んでいる。博学を鼻にかけているのが、カラジュン。愛称はカラで公立複合文化施設にて学芸員をしている。どこぞの国からかアズマに流れ着いた2世である。最近、よくコーヒーを飲みに来るタマルは建築業のようで、雨の日は居ることが多い。
そして、店主のリイチと女将のヤヨイ…リイチは料理を作るときは厨房だし、ヤヨイは出産して間もないため、店に出ている時間は短いが子供を連れてできるだけ店に出ている。この5人はほとんどこの末姫の噂が広がるときに店にいることが多い。ヒロマサがいないときもあるので正確ではないにしろ、何かしら知っている可能性が多い。
しかし、昔から知っているシユマなど疑ってかかることは正直難しい。
本当にこいつらの中に、情報操作した奴がいるのか…
疑心暗鬼になっていると、何かいつもと様子が違うことに気がついた女将がやってきた。
「女将…確か兄弟いたよな?竜見に…妹だったか?」
突然の話にキョトンとした顔をしたが、
「いえいえ、あれは姉です。…私に妹はいません。」
そうかそうかとヒロマサは珈琲を一口飲む。笑顔だったが奥歯にモノの挟まった言い方のようにも聞こえた。
「いやな、竜見のあたりに行く用事がありそうだからどんなところかと思って。」
そう言うと、女将の表情が少し明るくなった。
「そうなんですね。私も実際姉の家に行ったことはないけれど…。良いところだと聞いています。姉は、旅館をやっているので良かったら是非。」
そう言うといつもの女将に戻った。
「こないだも会っていたあの若いのから良くしてもらったと聞いていたからね、是非使わせてもらうよ。」
若いのとは彪比古のことである。事実良くしてもらったと聞いていた。
「あっ!あのとんでもない美丈夫な人ね!ヒロさんあんな素敵な人に師匠って呼ばれてたでしょ?ヒロさんもただの珈琲好きのご隠居じゃないとは思っていたけれど…謎の多い人ね〜」
そう言うと、夫のリイチがあたふたしながらあやしている子供の泣き声がする方へかけていった。




