巷説喧騒〜煙の出所①〜
アズマの喫茶「古都」でヒロマサと彪比古が奥まった席でひそひそ話を始めて早一時間、彼らの出した結論は、末姫の事件をわざと流している人物がいるということである。それが、結城を貶めようとする者なのか、末姫を攫った連中が仕掛けたことなのか明確にする必要性があるということでその日の話し合いは終わった。
翌日、彪比古はヒロマサをアズマ屋敷に呼び再び話し合った。公爵夫妻は公務でおらず、三姫も気を利かせて本山に戻っていた。だだっ広い彪比古の私室は人払いしてあった。
ヒロマサの見解としては、おそらく喫茶「古都」で発信されている情報があるということ。情報や流行が分かる場所として有名なのだから、あそこから流せばすぐに広がる。そして、おそらく発信源は馴染みの客の誰か…。
確かに異常な噂の浸透具合を考えるとそういうことがあるかもしれない。
しかも、この噂話の早さ。精通している誰かということだろう。それが本山の人間か、末姫を略取した側の人間か…。そもそもどうして流さしたのか。これも手中なのか。
ふと、ヒロマサは気になったことを口にした。
「そもそも末姫さんが保護されてるって、本山じゃ見つかっちまうだろ。姫さん安全な所にいるんだろうな」
と彪比古に尋ねた。
彪比古は頷いて
「それはもう…。なんせ竜見の城にいますから。」
と言うと、ヒロマサは目を大きくして
「竜見!?それじゃあ、ひいさんが匿ってるのか?」
と彪比古に詰め寄った。
ひいさんとは、おセンこと仲姫が剣術を習っている頃ヒロマサが呼ぶ呼称だった。
「…はい。そうです。そもそも末姫を見つけたのも姫殿下だったそうで…。」
こうなってくると、変に隠すことができず、おセンとして村で過ごさしていること、彪比古も三姫と兄妹と偽って家を借りていることなどを話した。
想像だにしない話に、ヒロマサは呆けているようにも見えたが
「そうか…。ひいさんは元気にしているんだな…。」
と長年心配してきた愛弟子の近況がしれて安堵したように見えた。
「つまり、そのひいさんの暮らす村に突然末姫さんが現れたってことか…。」
落ち着きを取り戻したヒロマサは、内容を整理して聞いていた。
「まぁ…それも妙だな。」
そう言うと、彪比古も頷く。
「偶然にしては出来すぎてますよね。…しかもいつもよりも早い明け方だったとはいえ、姫殿下以外人がいなかったというのも気になります。」
彪比古は言葉を選んでいるのか、歯切れの悪い言い方だった。
「村の住民も疑った方がいいってことか?」
ヒロマサは彪比古を試すように言った。
「あの村の人達は、本当に良い人なんですよ。疑いたくはない。もしかしたら宿に泊まっている行商たちかもしれない…。でも、結城に…いや姫殿下に仇なす者がいるなら私は許すことはできない…。」
その言葉を聞いて、ヒロマサは頷いた。
「相変わらずの優男かと思ったが、流石に第一騎兵隊副隊長殿だ。ちゃんと考えてるんだな。」
弟子の成長を嬉しそうに見るヒロマサもまた覚悟を決める。
「こっちだって茶飲み仲間を疑いたくはないがね、誰が噂の元なのか知らないとならないな。」
そう言うと、二人はお互いに結城のため、自分のため、そして仲姫のために協力し合おうと固く握手を交わしたのだった。




