城をつなぐ国~遺失の殿下④~
彪比古は、仲姫に初めて会ってから、どんなに忙しくても二日と空けずに毎日城へ通った。最初のうちは純粋に喜んで出迎えてくれていた仲姫も、一週間、二週間…1カ月とほぼ毎日来るこの血統の良い少年に違和感を覚えたようだった。自分を食い物にしようとしている…更にのし上がろうとしてるのかなど幼な心に思ったのか、ある日、自分にはなんの旨味もない話をし始めた。大姫のように誰からも崇拝されるような人間でもないし、両親は生まれたばかりの切望していた弟王子に夢中である。ぽつりぽつりと話す仲姫を見て、彪比古は自分が姫を追い込んでしまっていることに気が付いた。彪比古は慌てるように取り繕う。本当に一緒に時間を共有し、学びたいだけなのだと必死に訴えた。
彪比古は通い始めて、自分と仲姫が決定的に違うところに気が付いた。それは性別や王族といった当たり前のことではない。それは、親からの愛情である。これ以上ないほどの愛を受けていることを彪比古は感じている。毎朝父を母と見送り、時間が合えば共に夕食をとる。今日あったことを母と話し、誰とあったのか興味深げに父は聞いてくる。そんな当たり前が仲姫にはないのだ。勝手にソウルメイトのように感じていた彪比古は、ここで食い下がらなければいけないと必死であった。しかし、仲姫は違う。忙しく家族で過ごすことはほとんどない。父である国王とは、良くて3日に一度どこかで会えると良いほうだった。たまに仲姫と回廊を歩いていると楽しそうに王妃が王子と過ごしている声が聞こえる。王族の御子には、基本乳母が付き王妃は面倒を見ない。しかし、王子のことは上二人の王女と異なり手元に置いて面倒を見ている。これが、仲姫にとってどれだけ辛いことなのか、考えると胸が張り裂けそうであった。
姫様の家族になりたい
幼い仲姫の目が丸くなる。どういう意味なのか全くわからないような顔をした。大人がこのセリフを言ったらプロポーズにしか聞こえない。困った顔をした仲姫に彪比古は、更に続ける。
姫様の兄のような存在でありたい。笑ったり泣いたり一緒にできることが私にとっても嬉しくて悲しいことになるから。
仲姫は、少しうつむいて何か考えているようだったが、顔を起してにっこりと笑った。つられるように彪比古は満面の笑みで返した。それからというもの仲姫の隣に小公爵がいつもいるというのが城の中で当たり前になった。
仲良くなったからと言って2人は一日中一緒にいるわけではない。彪比古には、公爵家を継ぐためにやらなくてはならない、武芸や学問がある。仲姫も王家の人間としてふさわしい教養の学習がある。彪比古は、自分のするべき学習が終わると足しげく城に通い、仲姫と一緒に過ごした。もちろん都合が合わず、一人で待つこともあったし、遠くから姫を眺めているだけの日もあった、全く会えないで帰る日もあった。そんな日は、手持無沙汰に大姫のご機嫌を取りに行ったり、王子に顔を出したりした。それでいいと彪比古は仲姫に伝えてあったし、王家にも公爵夫人の願いとして伝わっており、城の中は入れないところがないのではないかというくらい自由自在に城の中に顔パスが効いていた。
もっぱら一緒に過ごしたのは、仲姫が城のベテラン兵士から教わる剣術の時間であった。両手剣が主流のこの国の剣術では、仲姫の体力が持たない。この髭の老兵が仲姫に指導することになったのは、レイピアであった。彪比古は、公爵家での剣術の稽古をしてから入城した日でも一緒に鍛錬した。その他にも、勉学を共にすることもあったし、お茶をするだけの日もあった。
仲姫とこの髭の老兵は、王妃から手にまめができてつぶれるようなことがないように注意が入ってるので、約束があった。必ず1時間程度の練習にすること。マメができそうになると体術に切り替えてみるなどして、その時間を守ることを大事にしていた。この剣の訓練は、この髭の老兵が退団するまで続いた。




