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城をつなぐ国~遺失の殿下③~

 初めて城に行った時、彪比古は全く乗り気ではなかった。公爵家の長子として生を受け、何不自由ない暮らしをしていた。尊敬できる父、美しく優しい母、約束された地位があることは、幼児教育が始まってすぐ、他の家とは違うことを知った。他の子と遊んでも何かよそよそしさを感じるし、心から楽しいと思ったことはない。公爵家の御曹司とはきっとこれからもそんな日が来ない孤高の者なのだと思っていた。そんな自分が唯一傅かなくてはならない相手が王家なのだ。幼くしてご機嫌伺いをしなくてはならない貴族社会とはなんと窮屈なのだろうと、自分の置かれた恵まれた環境に溜息がこの幼い少年からもれる。


 いったい どんな 姫君なのだろうか


 緊張と不安しかない中、謁見する。王妃と公爵夫人のお茶会という場の設定であるため、そこまでかしこまったものではないが、現れた一の姫にやはりかと思ってしまう。大姫と呼ばれる彼女は、彪比古よりも3歳年上で結城独特の美しさがにじみ出ていた。初めての御子として大層大事に育てられたのだろう、装束は内々のお茶会だというのに絢爛豪華な金糸の刺繡が見事であった。彼女は、自分と違って置かれた環境に順応し応えていることのできる人間だのだと関心すらした。まだまだ幼いのに扇の使い方や笑い方、貴婦人を気取っていて、彪比古は心の中で冷ややかにほくそ笑んだ。


 ここは自分のいる場所ではないと思う


 しばらくここには来たくないと思ったその時、彪比古の目は丸くなった。現れた幼く美しい女児が、袴を履いていたのだ。それが二の姫であった。綺麗な小紋を上に着てはいるが幼い娘が袴を掃いているところを初めて見たのだ。入室してすぐ、彼女は自分の格好が場違いであることを悟ったのか、少しうつむきながら美しい挨拶をした。深いため息をついてお茶を置いたのは王妃であった。


 仲姫はまだ武術ごっこがお好きなのね


 とても愛おしい娘に対して言うような口調ではなかった。姫らしい格好をしないことに呆れているのか、それともそもそも彼女を好ましく思っていないのかよくはわからないが、王妃は彼女の行動を理解できない様子であった。そんな王妃の様子に苦笑いを浮かべて仲姫と呼ばれる姫とは思えない格好の少女は


 いずれ、母様や姉上をわたくしが守りたいのです


 と小さな声で言った。今は剣術の練習に夢中だそうで、珍しがる公爵夫人に話始める。しかし、母と姉が興味がなさそうな様子を見てあまり饒舌には話さない。動きやすい格好の方が好みだと決して練習帰りに寄ったわけではないと釈明していた。しばらくすると、仲姫以外の3人は流行りの菓子や好みについて話が盛り上がっていた。仲姫も笑顔でいるがほとんど話に介入せず、愛想笑いを浮かべていた。

 そう、愛想笑い。彪比古は自分の目の前にいるこの幼い姫が自分と同じようにきっと理解されない苦しみを抱えているのだと、心が震えた。彼女はきっと自分が分かち合える人に違いない。盛り上がって話す三人に合わせるのが付かれたのか、お菓子を頬張り窓の外を眺める姫の横にそっと座る。驚く姫に三人には聞こえない声で彪比古は言った。


 私も剣術を習っているのですよ


 そういうとそっと左手の平にできた剣ダコを見せた。中指の下が固くなり甘皮がようやく再生しているようだった。仲姫は手を覗くように見た後、さきほどまで淀んでいた目を輝かせて、毎日どれくらい練習しているのか尋ねてきた。部屋の中に居場所のない2人は窓の外にこっそり出て話を始める。仲姫は、曲がりなりにも姫なのでタコができるほどは剣術をさせてはもらえないことを話してくれた。姫としての自覚はあるが、室内の3人の話に価値を見出せない彼女に心の震えを止めることなどできない。誰にも感じたことがないこの親近感は何なのであろうか。姫と話しながら彪比古は初めて声を上げて笑った。

 

 話に夢中になっていた公爵夫人の耳に笑い声が聞こえる。窓の外を見ると見たこともない笑顔で話す息子の姿があった。驚いた表情を見せる公爵夫人の様子を見て、視線の先を王妃も見る。そして王妃もまた楽しそうな仲姫の様子を初めて見た。公爵邸に戻るとすぐに、彪比古は父に今日のできことを話す。そして、仲姫と一緒に学ぶことを認めてほしいと直談判した。公爵は、息子が何にも興味を示さない淡白な子だと思っていたため、熱量に驚いた。しかし、その熱意と夫人の是非にという後押しもあり、彪比古は遊び相手としてほぼ毎日城へ通うこととなったのだ。

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