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城をつなぐ国~遺失の殿下②~

 彪比古は、白峰公爵家の長子として生を受けた。母は元王族。先々代王の末の妹に当たる。先々々代の王は、現王が王妃のみを妃としているのに対して、若い時分は側室も含めて何人もの妃がいた。晩年も好色は尽きることなく、退位してから晩年に愛妾として傍に置いた元侍女から生まれたのが、彪比古の母親。当時の「末姫」だ。彼女は、先々王とは既に親子以上に年が離れていて、むしろ先王の長子である現王よりも年下だった。結城の姫らしく、美貌に秀でていたが、いっても母親が正式な側妃でもなく、ましてや廃爵となった元貴族の娘であった。救いだったのは、母親が弁えている人で先々代に復爵を求めるわけでもなく、側妃として迎えてほしいというわけでもなく、ただただお世話を一途にしていた。一部の貴族からは、「見え透いた女」と揶揄されていたが、その誠実さが先王に好感を持たれ、「末姫」が3歳で先々々代が崩御されてからも、本山への留住を許された。先々代の御代は短くあったが、その後、先代が即位してからも現王を含めた皇子たちと同じように扱われてきた。

 だから末姫は、甥御に当たる先王を自分の父としばらくは思っていた。しかし、他の皇子たちと違って、彼を「陛下」と呼ぶように母から言われたり、御子は何人も生まれていくのに、自分は「末姫」と呼ばれたりとずっと違和感があった。父上と一度思い切って呼んでみたことがあった。父と思っていたその人は、悲しそうな笑顔を浮かべ首を横に振ったあと、他の御子にするように抱きしめてくれた。


 姫と呼ばれるが、本当の姫ではない


 父上と呼んでしまったあと、そのことに気が付いた母は慌てて跳んできて地面に擦れるほど頭を下げていた。先王は仕方がないと笑っていたがその顔ははやり悲しそうだった。他の御子とは一線を引かれている。そう感じていたが、先王に守られて育ってきたため、表立って不安を口にすることはなかった。父と呼ばなければ本当の父より父のように愛をくれる人、末姫にとって先王はそういう人だったのだ。しかし、中には端女の娘風情が、王族ぶりやがってと揶揄する者がいることに気が付いたのは、もうすぐ裳着をするというくらいの、大部物事の分別が付く頃であっただろうか。母は、末姫の裳着を見届けると安心したように、先々代を弔いに仏門に入ると言い残し本山を後にした。寂しかったが、自分以上をずっと守って本山に残っていた母はきっと、父と関係をもったころからずっと誹謗中傷に傷ついてきたに違いない。そう思うともう柵から解放してあげたいという気持ちが勝った。

 彼女の立場に変化が生まれたのは、皇太子であった現王に第一子が誕生し、本山やアズマの人々にお祝いムード一色だった頃だっただろうか。今まで、末姫を庇護してきた先王は、公表はしていなかったが病がちになり床に伏せる日も増えてきた。甥として叔母を見守ってきたが、それは彼の温情であり、義務ではない。本山の貴族たちもにわかにざわつき始め、それは末姫の耳にも入るところとなった。


 政治的に利用されて他国に嫁がされるか、臣下に降嫁するのか


 次の王の大叔母という立場は、さほど政治的に有効ではない。しかし、ただ結城との血縁を望んだり、単純に美姫を娶りたいと言ってきたりする国もなくはない。小国の正妃となるか、中規模国の側妃となるか。いずれもあまり恵まれた環境とはならないだろうと人知れず末姫が覚悟を決めたころ、先王に呼び出された。


 白峰公爵家への降嫁をする


 考えた未来の中で、一番平和で幸せなものであった。白色を賜るは不動の公爵家。しかも、相手は家督を継がれる小公爵。これ以上ない縁談であった。後ろ盾のない末姫を慮った最大級の縁組であったことは、誰も口にはしなかったが明らかだった。


 そんな彼女が嫁いですぐに懐妊し、玉のような男児を産んだということが先王の耳に入ったころ、安心したように退位し、しばらくして静かに崩御された。その男児が彪比古である。王家への感謝を忘れずにいる元末姫の新しい公爵夫人は、彪比古が歩くか歩かないかという頃に、城へ連れていき御子たちとの関わりを取るようにさせた。彪比古が初めて城に連れていかれたとき、現王の御子は、王女二人であった。しばらくは、王女二人の話し相手や遊び相手として過ごしていた。口さがない者たちは、未だ権力へ貪欲な末姫と揶揄する声もあった。


 そのような声がなくなったのは、現皇太子が誕生されてからだろうか。きっと公爵夫人は、皇太子に息子を侍らせると思われていた。しかし、彪比古が意思をもってこれを拒否した。彼が毎日のように会いに行ったのは、生まれたばかりの皇太子でも、大姫として優雅さに磨きがかかる第一王女でもなく、年の近い第二王女であった。ただただ、毎日勉強し、遊び、剣術のまねごとを第二王女とする様子を見た本山の人々は、無邪気さに毒気が抜かれ、末姫を揶揄することなど昔のこととなったのだ。

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