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城をつなぐ国~遺失の殿下⑤~

 ずっと兄妹のように過ごしてきた2人。しかし、王女と臣下という立場はしっかりと理解し、過ごしてきた。仲姫は、兄としての信頼と小公爵としての立場を理解して、彪比古に侍従としての名をあげることはなかった。自分に縛ることを良しとしなかったのだ。彪比古は、実のところ仲姫の慧華(けいか)の名前から忠誠の証として名をもらうことを期待していた時期があるが、仲姫の計らいも分かったので何も言えずにいた。


 もともと美しい仲姫が一層美しくなったのは、成人の儀である裳着を済ませたころからだろうか。以前から、父王の供として本山から下山し迎賓館に行くこともあったが、成人王族ともなれば、縁談もちらほらやってくる。見目麗しい仲姫は、綺麗な装束を身には付けるが、やはり王妃や他の弟妹より目立たないような物を選んでいるようにしか見えなかった。大姫が、絢爛豪華な嫁入りを北の大国にし、両国の友好関係を更に強化したのは、数か月前のこと。あちらが雪深くなる前に輿入れしていった大姫に、彪比古は心がさざ波だっていた。


 このままだと、仲姫も他国に嫁ぐのではないだろうか


 できうることなら、ずっと傍で仲姫と共にありたい。彪比古は「兄」と言ってしまったため口にすることはないが、仲姫に対して想いを募らせていることは間違いなく、彪比古自身気が付いていた。ヤキモキしている間に、恐れていたことが起きた。南西にある国グウィーヒンの皇太子との縁談が決まった。仲姫より一つ年下の皇太子は、集権的支配の強い国の中で、民に耳を傾ける名君の器と称されている男であった。彪比古より位も高く、評価の高い男に勝てるわけもない。しかし、仲姫の傍にいたい。


 結城の姫君は,婚約が調い輿入れするまでの間、結城島田髷(ゆうきしまだまげ)という髪の毛をまとめて縛り、毛先を折り返して膨らませる髪型を一定期間する。仲姫は大層この髪型が似合い、彪比古は想いを押し込めることができなかった。ある日、名を授けてほしい、一緒にグウィーヒンに付いていきたいと矢も楯もたまらず伝えた。仲姫は驚いた顔をしたが、フフッと笑って


 彪比古さんは彪比古さん。この先、どんな立場になろうともどんなに貴方が偉くなっても、これは変わらない。


 そう言って、もうこの話をすることが終わってしまった。その夜、彪比古は人知れず泣いた。でも、翌日仲姫の元に行かないという選択肢は彼にはなかったのだ。せめて、この国を離れるその日まで共にしよう。そう誓い傍にいた。迎え女官が来ても、諸国への挨拶もできるだけ傍に仕えた。本山を出立する日、彼女は出立の儀式として名前の「華」があしらわれた茶器を割った。もう二度と戻ってくることはないという儀式である。彪比古はこの儀式をなんとか止めたかった。御印を貰い受けたかったが、それも叶わずただただ仲姫の乗る御車を守るように、仲姫と共に育てたチユと一緒に護衛をした。チユの名の由来は吾亦紅。赤紫色の毛並みに怪我をしてもまた彪比古と共にあってほしいと、仲姫が名付けた。自分には叶わなかった賜名を愛馬がもらっていることに複雑さは感じるが、それでも二人の愛馬を最後まで仲姫に付き添わせたかった。国の南西にある竜見の城付近の国境で仲姫とは別れた。彼女の乗る御車を小さくなるまで見送った。

 他国でも幸せであってほしいと願ったが、この10年彼女は彪比古と別れた竜見の城にいる。


 仲姫が嫁ぐ日、グウィーヒンは滅びた。ボロボロで帰還した仲姫は、グウィーヒン近くのこの城で、嫁ぐはずだった国を弔っている。仲姫とは、出国したあの日以来会えずにいる。何度も竜見城を訪ねた。謁見を申し出たが、会うことは叶わなかった。せめてと思い、彪比古は、視察団としてこの竜見付近の治安を見守るしかなかった。国王は、彼の申し出に、娘を心配する親の顔を初めて見せ、視察団に必ず入れることを約束してくれた。そのため、彪比古は国王の私用を含む仕事を内々で引き受けるようになった。仲姫の妹の三姫との縁談は、彪比古は全く乗り気ではなかったが、国王と三姫の強い希望で成立する運びとなった。今は兄ではなく義弟となった自分に仲姫は、もしも会うことが叶うならなんと声をかけてくれるだろうか。


 叶うことのない願いは竜見の城で今回もまた叶わないまま、竜見の城を後にした。雨脚がまた強くなり、とても視察団の所まで戻ることはできないようだった。チユも無理な山道を通ったので休ませたい。そう思い、竜見の城下に宿をとることにしたのだった。

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