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天狗 ~神眠る森~  作者: 東雲 景惚
諸行無常
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89/100

巷説喧騒〜歪んだ憧憬④〜

 今、結城の城下町アズマでは「末姫行方不明事件」で大騒ぎだ。

 「末姫に、恋焦がれていた他国の王子が攫っていった」

 「鬢胡をよく思わない正義の軍団が末姫を逃がした」


など、末姫贔屓のアズマの民は末姫行方不明を騒ぎ立てた。


 一方で、生きているのか心配する声もあった。

猟奇的な集団に美しい末姫が無残に殺されているかもしれない…

思ってもあまりに不吉で口にすることはなかったが思っている民も少なくなかった。

 

 そもそもどうして末姫が行方不明になったことがアズマに知れ渡ったのか…。それすらアズマの人々は知らないのだ。絶対に始まったきっかけがあるのに。


 アズマの「古都」でも、まだ末姫が見つからないという話でもちきりだった。

女将のヤヨイと常連客のカンを含めたいつものメンバーはまたその話をしていた。

そこに、ヒロ爺がやってきた。それを見てすぐにヒロ爺に進展があったかどうか皆が群がった。

どうやら、ヒロ爺は迎え女官を知っていたあたりで、本山に精通していると思われたらしい。

 

 何も知らないことを知ると、蜘蛛の子を散らしたように皆引き下がったが、女将だけは残った。

 ヒロ爺に、今までのこの噂話について女将なりの解釈をふまえながら時系列に話していく。分かりきってることをヒロ爺に聞かせるように話していく。ヒロ爺はやれやれと深いため息をつきながら女将に言った。


「女将は、何か腑に落ちないことがあるってことだよな。」


ヒロ爺に言われて、周りをキョロキョロしながら周りを確認する。聞かれちゃまずいことのようだ。


「だってそう思いませんか?末姫様が結婚するってお祝いムードで…。人攫いなんて、普通は極秘事項でしょ?なのに、鬢胡で起きたことなのにもうアズマで知らない人はいないじゃない。こんなの誰かがわざと言ってるんじゃないかって…。」


女将はコソコソっとヒロ爺に話す。噂の出どころはわからないようだが、おそらく広めているのが『古都』でのネットワークの可能性が高いことに後ろめたさを感じているのだろう。


 ヒロ爺もまた噂が回るのが早すぎることに疑問を持っていた。戦争の情報戦略のようだと思ったからだ。


「私の方でもちょっとあたってみるよ。古都で何か良からぬことが起きたら、珈琲もケーキも楽しめなくなるからな。」


そう言われて女将は安堵したようだった。ヒロ爺は一度家に帰ってから、アズマの白峰公爵家に向かった。流石に本山の公爵家には許可がなくては行けない。


 流石に普段着で行くには気が引けた。引退してからちゃんとした服なんて、アキの結婚式で着た以来だが、それでは老人が賢まり過ぎかといつものシャツに一張羅のジャケットを羽織っただけになった。


 公爵家の門兵に昔の勲章を見せ、

「以前、小公爵殿に剣の稽古をつけていた者だが、伝言を頼みたい。」

そう言った。

 門兵は見たことがないような立派な勲章と老人があまりにかけ離れているものだが、眉間に皺を寄せ悩んでしまったが、

「伝言してもらえるだけで小公爵殿はわかるはずだから」


と、『アヤ坊、再会した場所で会いたい』と書いて渡した。


門兵は、ヒロ爺にそのまま待機するように伝え、一人が中に入っていった。

数分後、帰ってきた門兵が、中に入るように促してきた。中に彪比古がいるのかとてっきり思って応接室と思われる絢爛豪華な部屋に通されると、入ってきたのは、剣の稽古をつけていた頃のおひいさんにどこか似ている麗しい女性であった。



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