巷説喧騒〜歪んだ憧憬③〜
囚われた末姫に、キーチが話した話は色々あった、国々への文句のようなものもあれば、哲学的な話もあり、末姫がよくわからないことまで話していた。その中でも印象的だったのが生き方についてであった。
自分の生まれや立場は自分で選ぶことができないが、生まれ落ちたからには全うする必要がある。
と、言ったかと思えば
自分の生まれにあらがって自分の生き方を見出せるというのが一番の幸せな生き方かもしれない
とも言った。しかし、最後には
特に王族に生まれた、「おひいさん」なんかにはわからない話だな
と、少し皮肉るような言い方をした。しかし、こうも付け加えた。
あぁ…中には骨のある「おひいさん」がいたな…お前は知らないのか。ずいぶん愉快な生き方をしているお姉さんを
それは、きっと仲の姉上のことに違いない。竜見に来てからの王族の姫君としてふるまっていそうでまったく奇怪な行動をしている仲の姉上から目が離せないのも、キーチのいっていた愉快な生き方をしている姉に興味がわいたからである。体力が戻るにあたって、末姫は、自分が仲姫に助けられた場所がこの場内でないことは分かった。朝日が昇って間もない時間に一人で歩く姫君なんて世の中に存在するのか…。美容のことしか考えてこなかった末姫でも分かる話だった。
以前の末姫であれば、王家の姫君としてふさわしくない生活をしてると嫌悪感を仲姫にもったかもしれないが、こんな状況に置かれて考えが変わった。
いやむしろ自分と同じような環境に置かれていたはずなのにこんな生活をしている姉に対して興味がわかないはずなかった。
ただ美しい華でいようと努力してきた末姫には生まれてこのかたしたことがない事ばかりしている姉…。
同じ一族に生まれたのに何故こんなにも違うのか…。
そしてどうしてそれをキーチは知っているのか…。巷では、姉は隠居生活をしているものだと思われている。あのいつも行っている見回りが本当だったとして、王族の姫君が一人で馬に乗って現れているなんてどれほどの人間が理解しているのか…。なのにこの姉を知っているというのか…それとももっと詳しく知っているというのだろうか…。
キーチに対しての想いが敬慕に近いもの…と思っているが、何やら不穏なことを企んでいるのか。
そもそも彼は、末姫を結婚の儀式から連れ去った一味というか、張本人である。どうして末姫を連れ去ったのか、式に乱入してきたのか分からずじまいであった。
末姫に結城に帰る選択肢を与えたのも、必ず選ぶと思ったからなのか。あの選択肢には鬢胡は入っていなかった。これは見透かされていたからなのか…。
悩んでいると慌てて着替えてきた仲姫が現れた。私の表情を見て、顔色がいいと安堵しているようだ。私のためためなのか、忙しくさせているのに嫌な顔せず様子を見に来てくれるこの姉にキーチの事を黙っている事に少し後ろめたさはある。
「姉上は、お一人で馬に乗ってどちらに行かれているのですか?」
思い切って聞いてみると、仲姫はまさかバレているなんてというような、真っ赤な顔をして立ち上がった。
「えっ!?どうして知っているの!?」
慌てすぎて否定すらしない姉に
「私が起きて居られるようになったとき、馬袴でいらしたので…馬車じゃないことを知りました。最近は窓辺まで歩いていけるので、今日も姉上のお帰りをそちらから見ておりました。」
と窓を指さした。仲姫は窓の方に行くと、確かに自分が乗り降りしている辺りであって、なんと配慮のなかったことかと反省する。
「もしかして、キセと名付けたのもあの真っ黒な馬ですか?」
と言う末姫に、全てバレてしまっているのだと諦めたように仲姫は頷く。
「城下の様子を見たくて…馬で移動してるの…。誰も一国の姫が一人でそんなことしてるなんて思わないでしょ?アズマの商家の後家ってことにしてるのよ。」
仲姫は全部は話せないが、知られてしまったことには正直に答えたつもりだった。末姫もキーチのことを言えない分、仲姫の行動について知らないふりをせずに言ったことで少し罪悪感が減り、お互いに安堵したいのだった。




