巷説喧騒〜歪んだ憧憬②〜
見張りを突き飛ばして走り出した末姫は、力が入りすぎて見見張りが怪我をしたんじゃないかと気にしたが、もしもここで捕まったら末姫自身がもっと酷い扱いを受けることは想定できたし、キーチからも強く言われた。
絶対に振り返らずに走りきれ
草木が当たって血が出ても、坂道を転げても
必ず森を抜けることがこの脱出のたった一つの
成功できる可能性だ
もしも末姫が捕まったらキーチも何かしら関与していたと咎を受けるかもしれない。
それは…嫌だ。
末姫はそう思った。これは、辛い囚われの生活で唯一の光だったキーチへの心配なのか…。それともヨハが全く関してくれなかった、トキメキのものなのか…。どちらにしても走り切る必要があった。
ここで立ち止まり振り返ったら、同じような木々の中、どちらに走るのかもわからなくなり、彷徨うだけだ。歩くことはあっても決して歩みを止めなかった。そもそもずっと城暮らしの末姫に体力があるわけがない。それでも、息が上がりすぎて顔が上を向いてしまい、したこともないような歯を食いしばり汗だくな形相で末姫は走った。
不安定な道なき道を行くため草木に足を取られるとこも、何度も転ぶこともあった。
そして…
末姫は、少し明るいほうへ近づいた気がした。更に進むと、ちょうど夜明けなのか、空が白ばんでいて眩しい光が差し込んだと思ったら、村のような建物が並ぶ所に出そうであった。
キーチの言っていた通りだった。しかし日の出を迎えた村の割に人気がない。恐る恐る村の方へ草を掻き分けて出てみる。明るい場所で冷静に自分の姿を確認すると考えられないくらい泥や草木の汚れと、裾は踏んだり引っかかったりして切れている部分があり、とてもじゃないが何者か訴えても信じでらえるような格好ではなかった。
結城の民に不審者として扱われることだけは嫌だ
そう思いながらなんとかしないとと思い歩き出した。舗装された場所で歩くと、節々が痛いことに実感が沸く…足を引きずりながらキーチの言っていた身内を探そうとする。 しかし、ここまで無我夢中で、走ってきたせいで足が言うことをきかない。
そうこうしているうちに、奥の方に人の気配を感じたがそれが味方なのかどうかすら分からない。
すると現れた女性は二十代だろうか…。末姫は危害を加えないだろうとホッとして崩れ落ちた。駆け寄ってくるその女性は末姫に『照鈴』と問いかける。末姫は驚いた。自分の名前を知っている者など限られている。そっと顔をあげてその女性を見ると、化粧っ気はないが明らかに麗しい女性で、結城の一族であることは分かった。キーチの言っていた身内なのだろう。
この年代で末姫の事を知っている女性など一人しか思いつかなかった。
結婚の挨拶であった大姫でも、一緒に育った三姫でもない…仲姫であることは間違いなかった。
「お…お姉…様」
そう言うと仲姫の腕の中で崩れ落ちた。
キーチは末姫を逃がしたことを咎められていないだろうか。末姫は顎をさすりながら、ベッドの中から寝宮の森の方を眺めるのであった。




