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天狗 ~神眠る森~  作者: 東雲 景惚
諸行無常
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84/100

巷説喧騒〜隠された心酔④〜

 末姫を竜見に迎えてから2週間。おセンは3日と空けず様子を見に行っている。あまりにも頻繁に行くのに、馬車では迎えに来てもらう時間もままならないので、おセンがチユに乗ってしまったために彪比古が乗馬していた黒毛の馬を宿屋の女将にお願いして、宿の馬舍に置かせてもらうことにした。

「先生は馬まで乗りこなすのねぇ」

などと、褒めているのか呆れているのか分からない言われ方をしたが、たまにでる「おセン様は本当は貴族の令嬢」という噂も払拭できる。馬を横乗りする令嬢はいるかもしれないが、跨いで乗るのは女の騎士くらいだろうか。近くの静養所に妹がいるので、馬で様子を見に聞くため…。と言い、馬は実家の商家で教わったと言うことにした。

 この馬は2歳になったばかりであった。しっとりと黒黒した毛並みでおセンにもすぐに慣れてくれた。竜見の城の馬場の管理者に名前を聞くと、苦笑いしながら他にも黒い馬は居るのに、クロと数頭を呼んでいたらしく、呆れたおセンと彪比古は石炭のような美しい様子と末姫に関わることで大義を果たしたので、瀝青炭にちなみ「キセ」と改名した。

 鉱山に関わるから…と、末姫にも馬に名前を石炭に纏わる名をつけてしまったことを話すと、


「人の賜名ではないのだから、どうぞ。そんな事をイチイチ許可してたら世の中の人、みんな名前付けられなくなりますよ。」

と笑ってみせた。


 末姫の調子はかなり良くなっているようで、本山から帰ってくると呆けていただけだった末姫は顔色が良くなって話も大分するようになっていた。彼女の言ってることはもっともだ。そもそも漢字を当てない以上、そんな許可なんていらないのだから。

 末姫が竜見の城を不在にする様子を不思議に思い始めたので、領地の視察をしていると取り繕った。嘘ではない。村の様子から必要なことを考え支援や整備を行なっている。しかし、見ているのはあの村だけで他の集落は全く見ていないので、真実とも言えない。

 しかし、これ以上今の生活について身内に説明し、あけすけになるのもどうかと…話を誤魔化したのだった。


 末姫は、忙しく竜見の城と村を行き来するおセンを、身体を起こすことができるようになってから、よくよく観察するようになった。3日と空けずに様子を見に来るが慌ただしく、いつもは身支度をそれなりに整えてから現れるが、ずっと伏せていた末姫が身体を起こしているという報告に、慌てて部屋に入ってきたときは馬乗袴の格好であった。


「姉上は、馬車ではなく馬に乗ってお出かけになっているのかしら…」


本山の末姫の生活の中ではあり得ない状況である。末姫とおセンは確かに年の離れた姉妹だが、彼女のことを知らなせぎることに驚きを隠せない。幼少期母の実家で過ごしていた末姫は、城に戻った頃仲姫の武勇について耳にしたことがある気がした。


その辺の兵士よりも軽やかにまるでダンスをしているような剣さばき


仲姫の剣術をよく思わない母后に見つからないようにコソコソと女官が話していた。仲姫の美貌も相まって密かに応援していた者は少なからずいた。しかし、剣術の習い事はしばらくしてやめてしまったように覚えているが、馬術もだったのか…。と末姫はただただ驚いていた。うろ覚えだったが、末姫が寝宮の森を抜けたとき…あれはどこだったのだろうか…

疑問に思うことがたくさんあったからだ。




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