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天狗 ~神眠る森~  作者: 東雲 景惚
諸行無常
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80/100

巷説喧騒〜姫の行く末⑤〜

 竜見の城に移って丸2日、手紙がおセンのところに届いた。しかも届けたのはよりにもよって彪比古であった。おセンと末姫のことを聞きつけ、公爵家の嫡子がわざわざ買って出たのだった。渡された手紙に目を通す。


 末姫の今後について、仲姫と相談したし。ついては本山へ速やかに帰山されたし。


 おセンは、目を疑った。末姫を何がなんでも戻せというのかと心配したが、さすが人の親、そんな無碍なことはしないのだろう。しかし、何故おセンが代わりに出向くのか…。

きっと父王は、自分だけでは決定できないが故におセンの助言を必要としているのだと、相変わらずの父王に呆れてしまう。


仲姫だって本山に行くのは気が引ける


そうは思ってくれなかったのかと、薄っすらと怒りすら覚える。しかし、大事な妹のためであるのでこれは火急であり、直ぐにでも出発しなくてはならない。

 覚悟を決め、末姫にしばらく留守にすることを伝えた。末姫は不安そうな顔をしたが、俯きながら頷いた。

 いざ急ぐとなると、馬車で向かうのも遅いか…と、彪比古をじっと見て、彪比古が傍らにいるのであればと、いつもは足の間が割れていない行燈袴を着用しているのに、急いで野袴を履いた。

 彪比古はその姿を見てどうやっていこうとしているのか分かったため、いくらなんでも…と止めたがおセンは引く気がない。不快ため息をつき、彪比古は渋々了承する。馬場にいき、おセンはチユの顔を撫でる。


 彪比古さん、私がチユに乗ってもよろしくて?


彪比古はもうご勝手にというような頷きをする。勢いをつけてチユにおセンはまたがる。久しぶりの乗馬だが、チユは賢いのでそれをわかっているのかおセンに、あわせているようだった。彪比古も竜見の城てー飼われている馬に乗って伴をする。その後ろを突然言われた兵が数名馬で追いかけるという形で、あっという間に本山に着いた。感覚を取り戻してからのおセンはチユに羽でも生えたのかと言うくらい軽やかに、スピーディに快走した。

 自分の時と違うないか?などと彪比古は思ったが必死についていったのだった。


アズマについて…本山を目の前にしたとき、10年ぶりのこの山城に入山するのかと身がすくんだが、大きく息を吐いて、本山へ向かいそして山を駆け上がった。


 入城するとすぐに、これが自分の戦闘服と言わんばかりに、持ってきた行燈袴に着替えた。

 応接室で待とうとしたとき、急ぎ足の足音が聞こえてくる。

扉が開くと父王が息を切らせており、10年ぶりの再会に礼をしようとした瞬間、父王に強く抱きしめられた。


「慧華…そなたに本山に来いなどと無理を強いてすまなかった。…でも、この10年そなたに会いたかった…生きて会える日が来て、とても嬉しく思うぞ。」


と涙しながら父王は娘の頬を撫でた。もう20をだいぶ過ぎた大の大人に何をするのかとも思ったが、10年父王もずっと仲姫に手を差し伸べたくてもできなかった思いがあったのだと、おセンも目頭が熱くなった。


「陛下、再会を噛み締めたい思いはございますが、今は妹について早急に話し合わねばなりません。あの子の未来は護らねばならないですから。」


そう言うとおセンは目頭を拭った。父王も我に返り、息を整えて頷いたのだった。


「すまない…では、建設的な話し合いをしようじゃないか。」


おセンが連れて行かれた場には、両陛下と白峰公爵、朱山公爵だけの場であった。

姉としての立場と、結婚式が取りやめとなった前例者としてこの話し合いに臨む。

 おセンはもう一度深く息を吐いて着座した。

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