巷説喧騒〜姫の行く末②〜
ナンビトタリトモ シングウノモリヲ オカスコト キンズ
これは、寝宮の森…神宮に隣接する国々の暗黙の了解だと幼い頃より信じて疑わなかった。なのに、ロクが見回りをするときには当たり前のように人の気配を感じると言う。
そんな昔から末姫をさらった者たちが蔓延っていたの言うことなのか…
あまりの驚きに言葉なく俯いてしまったおセンに、何かまずいことを言ったのかと慌てたロクが付け足す。
「亡命する人とか不逞の輩がゴロゴロしているというよりは、ちょっと国から出てショートカットするとか聖域ですからね、こっそり貴重な山菜とか採りに来ている人とか…多分そっちですよ?…すみません不安にさせてしまって…。聖域ですからね、悪い奴らだって留まらないですよ。」
そう言ってしょげるロクに、今度はおセンが、慌てる。
「そうよね…ロクだって見回りとはいえ入っているんだもの…。そういう人はいるわよね…」
そう言ってまた少し考え込む。つまり、公には聖域として入ることを禁止された森に人目を盗んで入っている人がいるのは、おセンは分からずとも、知っている人は知っている状態であるということで、つまりはおセンを誘拐した者たちがそういった人たちに紛れて森にいた場合分かりづらいということになる。
犯人を見つけるのは時間がかかるかもしれない
鬢胡を狙ったにせよ、末姫を狙ったにせよ、相手の潜伏先が神宮かもしれない。しかも、関係のない人々も入っているとなると…。
悩みどころが多いが、首を振って気持ちを切り替えた。ロクに送りのお礼を言ってまた末姫の横につく。
夕方くらいに、閉じたまぶたがぴくっと動いた。手を握ると握り返してくる。マイに昼間作ったお粥を温め直してもらう頃、薄っすら目を開けた。
「照鈴、わかる?仲の姉様よ。」
そう言うと、小さく頷いた。温めたお粥をマイが運んできたので、ぼうっとしながらもおセンが匙を口元に持っていくと上唇を動かしながら、少しこぼしてはいるものの食べていた。それを見て、おセンは安堵した。身体が本能的に生きたがっていると感じたからだ。
夜が更けて、人気がなくなった頃、馬車が裏口につけてくれた。末姫がおぼろげなうちにこの村から竜見の城に移動したかった。これはこれ以上ほかの人に知られたくないおセン自身のためでもあった。そして末姫のために少しでも早く医者を呼びたいと思っていたし、神宮から少し距離をとりたいかもしれないという配慮や大事にされてきた末姫が、民家で過ごすなんて…。自らやってきた三姫とは違うのだ。
肩を抱いて馬車に乗り込む。腕のなかにいる末姫は、幼い頃の愛らしさがそのまま残っているように見えた。すぐに城には着いた。信頼できる女官たちに支えられて末姫は部屋へと連れて行かれた。末姫を寝かした部屋からは鏡台など鏡を取り外しておいてもらった。
末姫の顎から耳にかけて、刀の跡が付いているからだった。深くはない。しかし、もしも跡になるとしたら美貌を自慢にしてきた末姫の事を思うと、少しでも事実を知るのを遅らせたいと思うのであった。




