巷説喧騒〜姫の行く末①〜
外は大分太陽が上がり人の行き交う声が聞こえてくる。おセンは、人けがないうちに何とか末姫を抱きかかえたまま家に戻り、マイと一緒にベッドに寝かせた。どれくらいの距離を走ったのか、末姫の婚礼衣装であった服は泥だらけで、何とか2人で脱がせておセンの寝間着を着させた。
幸い…と言っていいのか、泥や草木の汁での汚れや擦り傷などは目立つが、着衣に他人が見出した形跡はないことが、婚礼のために気合の入った着付けが乱れていないことからうかがえた。辱めは受けていないように見えた。
今日は寺子屋が休みで本当に良かった…。いつもなら既に子供たちがガジェットに来ている時間である。待てない子たちは母屋の方に呼びに来る者もいる。着付けを解いたり、清拭をしたりしているときに入ってこられたら目も当てられない。
マイに、取り急ぎ竜見の城に行き末姫の身柄を確保したことを本山に早馬を出してもらえるよう、父王当てに手紙を書き、できれば夜人気がなくなったら竜見の城に末姫を動かしたいので馬車の手配も託した。
どんな状況であれ、一週間食事をちゃんととっていたかもわからない。重湯やおかゆが食べられればよいと、お湯を沸かしたり消化にいいものをと用意したりした。
巷では、末姫が略奪された話はまだ出回ってはいない。しかし、鬢胡からの行商の者たちがそろそろ結城に来てもおかしくない頃だ。とてつもない箝口令は引かれているだろうが、人の口に戸は建てられないという。どこかで漏れ出すに決まっている。
末姫はまだ眠っているうちにマイが帰ってきた。マイに末姫を託して、おセンは旅館の女将たちに、以前から言っていた「実家の妹の容態が悪化したので夜から戻るとこになった」と伝えて回り寺子屋は戻ってくるまで当分休みなので各自復習をするように言った。女将はとても心配してくれ、子どもたちの家には協力して連絡することを約束してくれた。
その後、村長のところにも行き家庭の事情でしばらく留守をする話をした。唯一本当は、貴族と知っている村長は少し訝しんだような変な顔をしたが、頷いて安全に行くようにと言ってくれた。
村長のところで補佐をしているロクは、あまりに急なことに驚き、外に出たおセンを追いかけた。
彼はおセンを家まで送るといい、一緒に歩いた。本当なら早く帰って末姫の様子が見たかったが、ふとロクに聞きたいことが思いつき、並んで帰ることにした。
「ご家族が急変しているなんて、お大事にしてください。」
当たり障りのない話をしてくるロクにうんとが頷きながら話を聞いて、きりのいいところでロクに尋ねた。
「ロクは、まだ神宮に行っているのでしょ?」
ロクはキョトンとした顔を、見せた。彼はこの村に逃げ落ちて以来、他に森に逃げおおせている人がいないから時々コッソリ見に行っているのをおセンは知っていた。
「えっと…そうですね…はい。」
ダメと言われていることをすんなりとやっている言えずモゴモゴ応えるロクにクスリと笑いながら
「何も咎めようと言っているわけではないの。ただね、最近変わったことはないかと思って…」
と曖昧な感じで話をした。
「最近、…ですか? う〜ん…あるかな?そんなこと。」
考えてみているようだがピンとはきていないの様子のロクに
「何でもいいのよ。人影があった…とか、話声が聴こえた…とか。」
と言ってみたもののないかもと諦めて聞いてみると
「人影…は、私が来た頃からずっとありますよ。」
と予想外の答えをロクが返してきたのだった。




