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天狗 ~神眠る森~  作者: 東雲 景惚
使徒の目覚め
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黎明の始まり〜運命の岐路⑤〜

 軍事大国鬢胡の皇太子の結婚式で、由緒正しき結城の花嫁が反乱者たちに連れ去られて丸3日。以前、末姫の安否は分からなかった。

 何もできずにいた末姫の兄である王太子は、とりあえず早馬で結城の父に知らせることだけはした。早馬は、乗り継ぎ乗り継ぎ通常の速さの2倍以上のスピードで結城の城へ向かい、両陛下へ知らせが届いた。

 

 ビンコニハンランシャ スエヒメリャクダツサレル


 両陛下は驚き、兵上げるか迷ったがこの情報だけではどこにどう兵を向かわせるのか全く分からずただただ困惑した。

 とにかく、万全の兵の準備を国境に配置することにした。この知らせはすぐに早馬で国境近い竜見にも届き、仲姫であるおセンの知るところともなった。

 ただ、おセンが知ったのは結城に知らせが来た翌日であった。末姫がいなくなってから4日…。

 末姫が目的だったのか、鬢胡への反乱が目的だったのか、それすら分からない。無事であるのだろうか…。おセンの所に伝えに来たのは、この村ではクシと名乗る緋梅であった。クシはこの末姫の事件が十年前のこともあってどう伝えるべきなのか迷いながら…でも急いでやってきた。

 定期的にくる時期でもないのにクシが現れたことにただ事ではない雰囲気を感じ取り、子供達を早々に家に返して話を聞いた。


 

そもそも結城王家の国外での婚姻は、仲姫以来で、ただでさえあまり良くないのではと思っていたのに、何故こんなことになってしまったのか、おセンは崩れるように椅子に座った。


 その後、追加の情報は来ず一週間が過ぎた。末姫はどうなってしまったのか…。おセンがクヨクヨしていても末姫が戻ってくるわけではない。そう言い聞かせて、子供達への寺子屋は休まずに続けた。

ただ、妹が病だから急変するようならアズマに行く…

とだけ伝えた。

 しかし、一週間がたち状況が深刻化しているのは明らかだった。式に参列していた弟の王太子は、ちゃんと今どうなっているのか知らせを出しているのか、身は安全に置かせてもらっているのか、成人した弟を心配しても仕方ないのにそちらも気になってしまった。


それから更に3日たち…末姫が連れ去られて2週間。もしも置き去りにされたり、飲まず食わずの状況であったりすれば、生きてはいられない日数である。

誰か良い人が匿ってくれているとよいが…。そう思いながら朝の身支度をする。いつもよりも早く目が覚めて、畑の水を井戸に汲みに行こうと外に出た。


 春の日差しは暖かく朝の日差しはキラキラとしていて、朝露が輝いていた。いつもよりも早い時間のせいか全く人が外にいなかった。

 井戸の前に立ち、何度か繰り返し桶で運び水溜に入れるが、今日は何回行こうか…。と思いながら2回往復した。いつもなら10回くらいで止めようかなと思っていると村の奥の方…。神宮の森の方からガサゴソと音がした。動物…にしては警戒心のないような…全く軽やかではない動きのようだ。ケガでもしている動物か何かかと…そちらに寄っていってみた。


 おセンは目を疑った。神宮から出てきたのはボロボロの衣を纏った人間だった。人の姿をみて安堵したのか、座り込んで前屈みに倒れた。慌てておセンが近寄ってみると、明らかにその薄汚れた衣は上質な結城の民族衣装であった。


 恐る恐るその崩れた人に声をかける


「もしかして…照…鈴…なの?」


末姫の他にほとんど知られていない名を呼んだ。呼ばれた人は、ビクッとして顔を起こすと…涙を瞳いっぱいに浮かべて


「お…お姉…様」


10年ぶりに姉妹が再会した瞬間だった。安心したのかおセンに崩れるように寄りかかりった末姫は幼い頃、遊び疲れて寝てしまったときとさほど変わらない顔で意識を失った。


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