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天狗 ~神眠る森~  作者: 東雲 景惚
使徒の目覚め
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黎明の始まり〜運命の岐路③〜

 早馬で隣接していない鬢胡まで、王族代表として妹の結婚式に出席をしにやってきた結城の王太子は、2週間ぶりに見た自分の妹に衝撃を受けた。

 末の妹姫と言えば、両陛下の愛を一身に受ける当代一の美女として名高い。本人も自覚しているようで、他の人達に見えるところでは、文句のつけようのない立ち振舞をしていた。

 それはもちろん兄である王太子にもそうで、決して弱味を見せない、わざと見せることはあってもそれは何か目的があって…と言う時だけだった。

 抜け目のない…というのもどうかと思うが計算高いのが末の妹姫だったのに、王太子を目の前にしてもいつもの愛想の詰まった笑顔を見せないで、顔には困惑が王太子にも見て取れた。マリッジブルーなのか、この結婚が軍事国との橋渡しになるということは、結城もきな臭くなるということをやっと感じたのか、もしくは結城のように皆がチヤホヤしてくれないことへの焦りなのか…。王太子は、思いのほか末姫の機微に聡くて自分でも驚いた。

 この軍事国に嫁ぐことに既に嫌気が差しているのかもしれない。しかし、そんなこと優柔不断の王太子に尋ねることも、相談に乗ることもできるわけがないのだ。

 だから、「2週間もたっていないのにこんなにも姫に会えなかったのが寂しいなんて」王太子自身がなんと胡散臭い台詞だと思うほど心がこもらない話であった。

それでもいくらか安堵したような顔を末姫がしたのでこれで良いと王太子も思うことにした。軍事国鬢胡に牙を向ける軍事力は結城にはない。だったら末姫のためにもありったけの王太子スマイルで鬢胡の臣下たち特に女官を末姫の味方にしてあげることくらいしか思いつかなかった。


 結婚式当日。花嫁の近親者代表として、おもむろに立って末姫の入場を待った。王太子の装束は、末姫と同じく結城の正装で、襲の上に袍という上着と、背中側に長く垂れた裾という衣を引きずる形である。昔語に描かれるようなその美しさに、老若男女問わず見とれてしまう。末姫の入場がこれから行われるというのにすっかり主役を奪うような形になり、苦笑いを浮かべたが、ただ微笑むようにしか見えない王太子に更に釘付けにさせてしまうのであった。


 花婿の鬢胡の皇太子が現れ、いくらか雰囲気が終息し、王太子は安堵した。そして末姫が入場し、雰囲気がガラリと変わる。

 幾重にも重ねた衣と背中側に引きずる裳、ベールを着けてはいるもの、明らかに昨日の末姫の不安は見せず、堂々としたスイッチを入れた妹姫が歩いてきた。会場はその本の中から出てきたような…いや、物語の天女や美姫の想像を上回るような佇まいの姫君に、甘いため息が会場の至る所で聴こえる。


これがこれから鬢胡で生活する妹姫に追い風になるだろうと、王太子は安堵した。

 その時、バルガンの城にけたたましいような、地響きのような音な響き、王太子は言いようのない耳ざわりな音に膝をつく、その瞬間天井のステンドグラスを割って侵入者が数名現れた。

 会場は混乱の渦であった。不審者数名に気を取られているうちに視界から消えた妹姫を慌てて探す。

 すぐに見つけたが、安心できない状況だった。何故なら一人の不審者に、刃物を首元につきつけられている状況であった。

 身をよじり、堪える妹姫に王太子は何もできずただただ立ち尽くすだけであった。


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