黎明の始まり~天地一変⑤~
国境でヨハたちと別れ、10日以上馬車に揺られやっと鬢胡の首都バルガンに着いた。ネルキスはできるだけ平坦な道を選んではくれてはいたが、ヨハならもっと休憩をとってくれていたのになどと思いつつ、末姫は文句も言わずに過ごしていた。武装集団は馬車の周囲を守るように配置されていたが、正直末姫は護衛されているのか護送されているのか分からないと思った。
バルガンというのには、当て字で「原函」とされているがあまり定着せず、バルカンと現在でも言われている。そもそも鬢胡の本来の国名は「ヴィンゴルド」だった。しかし、結城を始めとする古来よりある国々の名前に漢字が用いられることが多いため、鬢胡と改名したと、末姫はオリガから聞いた。それをいうと、大姫の嫁いだガルダニアも「駆谷亜」という表記をしていたこともあったようだが、国の様子と名前があまりそぐわなかったのか、ガルダニアに戻したらしい。どうしても漢字で表すときは「冬将軍」としているようだ。
末姫は結城の首都ともいえるアズマも本山もそれほど熟知しているわけではないが、色とりどりの屋根と、自分たちの好きな壁色をしているにぎやかな街というように思っているが、バルカンは、灰色の壁でほとんどの家が屋上に上がれるようになっているため、鮮やかな屋根というものはなかった。
何故屋上に上がるようになっているのか…。団らんや洗濯物を干すためであればよいが…。何せ覇国として成り上がった鬢胡だからいざというときのために、徹底しているのかもしれない。よく見ると屋上の壁は狭間のような三角の穴が空いている。
あぁやっぱりか。
と末姫は目を伏せた。
この話はオリガからは聞いていない。おそらくかなり当たり前すぎて話す必要もなかったのだろう。振り返ってみると、オリガはよく、結城の町並みは綺麗と言っていた。
軍事国に嫁ぐということは、覚悟のいること。戦争が隣り合わせにあるということなのだ。同じ軍事国ガルダニアに嫁いだ大姫に会ったとき、その圧倒的なオーラに末姫はたじろいだ。圧倒的な威圧感が上に立つものになければ、臣下がついてくるわけがない。可愛いとか美しいとかそんなことばかりを考えてきた末姫は、結城に戻った後から心を入れ替えた。なんとしてでもネルキスの敬意は失いたくないと思った。あの男の目は全く笑っていなかったが、今のところ皇太子妃になる末姫に対して彼なりの配慮はしてくれているようだった。だから、町並みをみて日和ったなどと思われたくなかった。
そう思われたくないと思うのには、もう一つの理由があった。鬢胡にくるまでの道中、他国も通過した。大国鬢胡の武装集団に恐れおののき悪さをしようなどと思う人々はいなかった。それほどまでに恐ろしい集団なんだろうと思った。鬢胡に入国する前のあたりは、廃墟が多かった。
ここは、仲の姉上が嫁ぐはずであった亡国か
と思った。この国は、10年間どこの国にも属さずにいる。廃墟と化した街並みに新しい国を設立しようとする集団があったり、他国が吸収しようとしたり、支援をしようとしたり、まとまりがなくただ年月が流れたのだ。
仲の姉上には申し訳ないけれど、婚礼前にここを見なくてはならないとは、縁起が悪いものだ
と目を逸らすしているところをネルキスには見られていた。隣国であったがゆえに通らざるを得ないのかもしれないが、姉のことを知っていてここを通そうとするのであれば、私がどんな反応をするのかネルキスに試されているのだと末姫は思ったからであった。




