黎明の始まり~天地一変④~
竜見の村の余韻も冷めないうちに、末姫の見送りのために本山の城に親族として並ぶ。妹姫は、いかに美しく見えるかということばかり考えていたと思っていたが、以前より明らかにしっかりとした意思をもって他国へ嫁ごうとしていた。他国に嫁ぐということはこれほどまでに大変なのかと、他人事のように思っていた。
それを思うと本当に恵まれた嫁ぎ先である。公爵家筆頭の嫡男で竜見の村にも一緒に来てくれる。離縁してもいいと思っていたが、今となってはこの干渉はしないのに支えあうような絶妙な距離感に居心地の良さすら感じている。
いつも側近くに仕えてくれていた與鋼は、子爵となるらしい。末姫を使うだけ使って、三男坊として一番好条件の立身出世ではないだろうか。
末姫が旅立って10日あまりした頃、公爵家の遣いとして両陛下のご機嫌伺いに城に行った。王后陛下はもっと憔悴しているのかと思ったら、意外や意外公務を全うしており、どちらかというと王陛下の方が、末姫を心配しているように見えたのが意外であった。帰るとき、與鋼を見かけた。子爵としての公務、拝領した土地の管理と忙しいであろうが、どうしても一言言ってやらねば気が済まなかった。
「妹の対価として得た地位はいかがか」と
側によって與鋼の顔を見て驚いた。端正な與鋼の顔色は悪く、はっきりとクマができていた目はうつろでこんな状態で本当に公務ができていたのだろうか。
「そなた…体調が悪いのか」
思わず、三姫は言いたかった言葉と全く違う言葉を発していた。
話しかけてきた相手が誰なのか、やっと理解したようで慌てて敬礼をする。
「殿下…いや、夫人。失礼いたしました。」
態勢を立て直し、與鋼が話す。自分の顔をじっとみる三姫に目が合わせられない。
「夫人は、私のことを薄情な売国奴ならぬ、売姫奴とでも思っているのでしょう。…私もそう思います。」
思っていることを言われて、三姫は少し動揺する。
「私は本山に帰ってきてから、国境で別れた姫の顔を思い出して何故ついていってやらなかったのか自責の念にかられているのです。自業自得ですが。」
そういう與鋼は、寂しそうに笑った。言ってやりたいことが言えなかったが、弱っている相手に更に追い打ちをかけるような育ちはしていない三姫は、
「妹のためにも、貴方は元気でいなくてはなならないわ。妹に悪いと思っているのであれば余計に。」
と、與鋼を鼓舞することしかできなかった。與鋼は、子爵家の名前を玉鋼とするらしい。末姫がいなくなった今、與鋼の名前は使うことができないが、王陛下に頼み玉鋼家としたらしい。もうすぐ末姫は鬢胡に到着する。来週婚礼の議が執り行われる。基本的にはあちらの主催のため、結城からは兄である王太子が参加である。その兄も昨日出立した。
末姫が嫁いだことでこの国の均衡が崩れるのかもしれないとなんとなく三姫は思うのであった。




