黎明の始まり〜天地一変③〜
一夜明けて国境に辿り着く。この先はもう鬢胡まで一緒のものだけが残り、鬢胡からの迎えとともに出立する。かなり早くに国境砦に着いたので、内心そわそわしながらも、表情には出さないように末姫は過ごした。
暫くすると遠くの方から馬のいななきが聴こえたようなきがして砦の胸壁の上に上がって遠くを眺めると平野の奥に黒い集団が見え、とんでもない地響きと伴に近寄ってくる。明らかに武装しているが、槍がクロスした旗印を見る限り鬢胡の一行に間違いない。
末姫は、恐ろしくなって後退りしそうになったが、きっと両手を握りしめすぐに出迎えの準備をするように命じた。
砦に着いた武装集団は100名をくだらない人数で、馬も鎧も黒かった。
中心にした人物が馬を降り、末姫の一行の前に出てくる。
結城にはいないような長身で、長い銀髪を一つに括り、黒いマスクをしていた。
妃殿下に敬礼
の声で、100名の集団が敬礼する。一糸乱れぬ動きと、ザッという音に末姫は内心ビクッとしたが、おくびに出さないように淡々と見た。
中央にいる男が跪いた。
「妃殿下に拝謁させていただき、恐悦至極。我が名は、ネルキス・アルスター、この先の伴をさせていただきます。」
と恭しく話した。
「出迎えご苦労である。世話になる。よろしく頼む。アルスター卿」
と、嫁入り用のスイッチをしっかりとオンにした末姫は凛々しく言った。ネルキス・アルスター…聞いたことがあった。皇太子の懐刀…。忠誠心が強く、敵に対して容赦がないという。
「妃殿下、私のことは是非ネルキスとお呼びください。」
そう言って末姫の手に、口付けた。
そのやりとりを一部始終見て、ヨハは咳払いをし、
「それにしても、これほどの人数…いささか黒い武装集団とは。花嫁を迎えに来たとは思えぬ出で立ちですね。」
と、言うと
ふっとネルキスは笑い
「いや、失礼。大事な妃殿下を御守りする故、万全を期したまで。噂に違わぬ当代一の美姫である妃殿下に何かあっては一大事。結城とは違い外は魑魅魍魎がおりますからね。」
と言った。
これは、結城など平和ボケの国では、理解できまいというヨハへの嫌味と捉えられる。結城の国で、ヨハにこんな嫌味を言うものはいない。ムキにはならないが、挑発された気分であった。
「さようか。魑魅魍魎…殿下はそういう類は知らずにお育ちですので、是非目にもそ耳にもしないよう御守りください。これほどまでの武装…ならば安心して殿下をお託しできます。」
そう言ってヨハは末姫を見た。
「殿下、ここでお別れです。殿下にお仕えできたこと人生の誉れでございました。」
ヨハがそう言うと、残留する者たちが一斉に跪く。
鬢胡の武装集団とは違い、一糸乱れぬ…というような感じではなかったが、それがまた愛おしく思えた。
「ヨハ…それから皆のもの…今までの忠義決して忘れぬ。ここで別れることになるが…これからも結城の為に尽くしてほしい。」
泣きそうな声で末姫が最後の言葉を皆に伝えた。あの、いかに可愛いらしく見せるかばかり考えていた末姫の立派な姿に皆胸を熱くしていた。
末姫は、くるりと向きを変えネルキスを見る。
「では、出立の準備をしましょう。よろしくネルキス。」
そう言うと、末姫はいつもの麗しい笑みを浮かべるのであった。




