黎明の始まり〜天地一変②〜
輿入れの為の道中は、ヨハの心配を他所に順調に進んだ。そして、結城国の最後の停泊所となる辺境伯邸へと着いたのは、予定よりも早く夕方であった。
末姫は、以前の旅のように疲れは殆ど出ておらず、元気そうにしていたことがヨハの安堵に繫がった。辺境伯に許可をとり、屋上に末姫と上った。まだ日は落ちきっておらず、神宮の森に今にも夕日が吸い込まれそうになっていた。
本山以外の景色に驚きながら見渡す末姫に、ヨハは
「夕日の方向小高い山々が連なっている辺りが竜見…あの上の塔が仲姫様の居城です。おそらく殿下が戻られるとして一番近い結城の城です。」
指で示しながらヨハは話し、末姫は興味深そうに聞く。
「こちらから見て…反対側のなだらかな農村部が私の領地になる場所です。」
指を180°動かして示すと末姫はぱぁっと笑顔になる。
「あの辺がヨハの…では、結城に帰るときは遠回りでもヨハの子爵領を通って行けるように手配させてね。」
と微笑む。
「殿下…竜見の奥に見えるのが神宮の森です。森は全ての国々につながっているので、私は…夕暮れ時、殿下と見たこの夕日を忘れないように森を見ることにいたします。」
そう言ったヨハに、末姫は驚いた。嫁ぎ際に付いてきてくれない不忠ともとれるヨハの行動とは真逆の台詞だからだ。
「ありがとう…私も森を見て、森でのこと思い出すわ。」
もう何を言っても付いてきてはくれないヨハに、悲しそうに優しく微笑んだ。何が悲しいって何もかもだった。何度も泣いたし、ヒステリックにもなった。せめて最後の思い出に…と、「絶世の美女」としてしなだれるように神宮の森ですがったが、それでも彼はここまでと己で決めた一線を越えてこなかった。
それは、末姫の黒歴史でもある。悲しい思い出であり、そんな誠実な男ヨハにずっと守られてきたのだと痛感する。
あぁ…もうお別れなのだと思えば思うほど、自分が結婚するのだということに現実味が沸く。
鬢胡の人達とうまくやれるだろうか。結婚相手の皇太子はどんな人なのか。考えていたら手がとても冷たくなってきて、両手を胸のあたりで強く握った。
この姿が、祈っているように見えたのか、ヨハがご無礼を…と言ってそっと手を重ねてきた。ヨハの手はとても熱くて、ジンジンと手を温める。
末姫は、泣きそうな顔でヨハを見上げる。図らずも上目遣いのようになってしまったが、全く計算していない顔にヨハは、愛らしいと感じてしまった。今まで全く感じたことなどないと言っても過言ではないのに。
「大丈夫です。貴女は誰よりも愛されるべき人です。だから安心して嫁いでください。」
ヨハが今まで見せたことのない優しい笑顔を見せた。
アレほど望んだ胸が熱くなる思い出はこんなところで達成してしまったと思いながらも泣いて頷いた。




