黎明の始まり〜天地一変①〜
衣を何重にも襲ねた綺羅びやかな結城の正装に結城島田髷の末姫が自分が末姫を見る最後の姿なのだと思うと、側近としての二つ名を貰っているヨハは胸込み上げてくるものがあった。「当代一の美女」というのは、幼く外にも出ない末姫の評判を良くするためにヨハは周りの者たちが流したかなりデフォルメした噂が一人歩きしたものだったが、今の末姫を見たら噂は本当であったと口々に言うだろう。花簪にレースが付けられ、顔は見えにくいが美しいことが伝わってくる。
動けずにいるヨハに気が付き、末姫が笑顔で話しかける。
「どうしたのヨハ…。あまりに綺麗で驚いたのかしら?」
おどけて見せる末姫の笑顔もヨハの心に突き刺さる。
「ええ。…あまりにお美しく…。この御姿を見ることができ歓喜に震えておりました。…殿下に仕えられたこと、一生の誉として…」
真面目に返してくるヨハに驚いてた末姫は
「でしょ?だから一緒に行こうって言ったのに。…お別れする国境の近くがヨハが領主となる辺りでしょ?最後に通ることができて嬉しいわ。」
と悲しそうに笑った。
城の前には大勢の観衆と王家の馬車が所狭しと連なっている。既に両陛下と、王太子夫妻、公爵家に嫁いだ三姫の姿が並びその時点で歓声が凄かったのに、そこに出てきた末姫に地割れが起きるのではないかというほどの末姫コールが起きた。
こんな経験がない末姫だったが、自分を祝ってくれている本山の人々ににこやかに会釈をする。末姫は張りぼてのように中身のない…幼いところが多かったがここ半年で、大分大人びた。他国への訪問や大姫との再会…。ヨハの離脱宣言がそうさせたのかと思うと、ヨハは罪悪感も少し出てくる。
末姫は陛下や兄姉に別れの礼をし、末姫の御印である鈴の紋の入った碗を陛下が叩き割る。
二度と戻って来ぬように…。死者に対して行うことと同じように。
これで最後と陛下にもう一度駆け寄り優しく肩を抱きしめてもらう。王后陛下は涙を拭くので忙しいのか、抱きしめることはしなかった。兄は妹の顔を手で包み込み、旅の無事を願っているようだった。姉は、泣いているものの手を取って励ましているようだった。
挨拶を終え、馬車に乗り込み末姫は大きく息をした。いよいよ、結城を離れるのだ。走り出した馬車は大門をくぐり、アズマの町中を通る。アズマの人々も歓声をあげて御祝してくれている。ヨハは末姫の馬車をガードするように馬で同行していたが、なんの暴動も起きないことを不思議に思っていた。
陛下の即位時も大姫と仲姫の輿入れ時も何かしら事件が起きていたのに、怖いくらい皆がお祝いしている。
この先何もなければよいが…と、ヨハは心配するのであった。




