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天狗 ~神眠る森~  作者: 東雲 景惚
使徒の目覚め
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黎明の始まり〜夢か現か⑤〜

 その日は、朝からずっとおサエは溜息をついていた。今日が、本山に戻る約束の日だからだ。もう少し留まることを、アヤに頼もうとしたが困惑した顔で首を横に振られた。

 それはそうだろう…。試験運用と言ってもいい初めての療養から約束を守らないと、公爵夫人に次の療養を認めてもらえない。

 そして、帰ったらすぐに末姫の婚儀のため、元王族として、公爵家の人間としてお見送りをすることとなる。ちなみに仲姫であるおセンは、辞退している。


 幼子のようにずっと頬を膨らませているおサエに、困った顔をしたおセンは、次に来るまでおセンのところに置いたカモミールは世話をすると約束し、見送るおセンを何度も何度も振り返りながら村をあとにした。。いつも連れて歩いていた小さい鉢のカモミールは、おサエがどうしてもと言って、連れて行くことになった。馬車の中でも膝の上に置いたり、持ち上げて見たり、まるで赤子のように大事にするものだから、カラはあちらでちゃんと振る舞えるのか心配そうにしている。

 カラもマイの協力もありやっと村での生活に慣れて来たところだったので、もう少しいても…と思ったが、元凄腕女官としては、ここで三姫を甘やかしてはならないとアヤと一緒に帰ることを曲げなかったので、後ろめたい気もしなくもない。

 また一度竜見の城で身支度を整えてから本山に向かう。先に竜見で待っていた彪比古と合流して、また数日の旅が始まった。

 あっという間に過ぎた村での生活で、まだ現実に引き戻される実感がわかない。あんなに楽しかった姉との生活と暫しの別れで、またそこに戻れることを楽しみに本山で頑張るしかないのだ。


次に行く頃は、カモミールが大きくなっているはず


そう思いながら鉢植えを眺めた。


 


※※※

 本山は、いつも以上に賑わっている。末姫の御成婚にあたり精一杯の門出をと盛り上げてくれているのだ。

 婚儀に向けて通る街道も今か今かとお祭り騒ぎである。アズマの街の噂では最短ルートなら竜見を通るが、療養中の姉がいるためなのか更に南側から向かうことになっている。しかし、本当は竜見よりもなだらかな道が末姫に負担をかけないと思い、與鋼ことヨハが最後の御奉公として道を決めた。勿論、仲姫のことが頭になかったとは言わない。しかし、他国に嫁げなかった姉君は正直縁起でもないと言うのが言わずの本音でもある。


 いよいよ婚礼道中として本山の大門を初めて通る。人々は、会ったこともない末姫に国の至宝とまで騒ぎ立てていたのだから、大盛り上がりになる。国境までの間、国中からお祝いのために人々が集まって来る。警備を最大限おこない、最善を尽くす。ヨハは、国に残るため、国境で別れることになる。最後の餞をこの世のものとは思えないくらい、国中の人々が末姫の道中が夢のような時だったと語り継いでくれることで、この国の中で彼女が生き続けると、そう信じてやまないのであった。


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