黎明の始まり〜夢か現か③〜
おセンは、この村に来てから十年近く、お金を使うことを躊躇うことが多かった。自分が使うお金は彼らの血税なのだと思うからだ。笑顔で商売したりものを作ったりしている彼らの少ない利益を貪っているのだと痛感してしまうからだ。特に竜見の村は、王家直轄地なわけでダイレクトに王家が搾取しているわけなのだから、余計に申し訳ない気持ちになる。最初にうちは、もちろん宿屋のお世話になっていたし、こまごまと城から持ってきたりもした。しかし、それではだめだと広大な裏庭に畑を作り、村の農家の年配者たちから畑のやり方や、収穫した作物の料理を教えてもらった。美味しいものを食べてきたおセンだから教えてもらった料理をさらにおいしくブラッシュアップし、宿屋の女将にアドバイスをしたりおすそ分けを行ったりした。これがおセンなりのせめてもの還元であった。
だからこそ、ここで暮らしたいと思うおサエには、同じようにつつましく生活してほしいと思っていた。お茶を入れることに興味がわいたならお茶を極めればよい。それとなく話してみたが、そこまでの情熱はないようで、おサエは「血税」という言葉に衝撃を受けあまり耳に入っていかないようだった。
この優しい村の人達の税金を使って生活している…。おサエは、公爵家の人間だが嫁入りまでは使っていたわけだし、結局は公爵領の血税はもらっているわけだ。困惑するおサエの顔を見て、おセンは慌てる。
「ごめんなさい。深刻に考えてほしくて言った訳では無いの。でも…ここに来たら嫌でも考えることになるから。だから、少しでも協力したくて。ここでは、嘘だったとしても同等でいられるでしょ?」
そう言っておサエの顔を覗き込む。慌てるおサエに
「もしも、ここで過ごしていきたいと思うなら、何かここの人たちに還元できることはないか…って考えてみて。すぐじゃなくていいのよ。ただ…私は子供たちと勉強して、畑で野菜を作ることで少しだけ、みんなに近づけた気がしてるの。」
食べ終わり、ふと裏庭をみたおセンは、そうだっと思いついたように、いそいそと外に出て何やら持ってくる。
「これ、カモミールっていうハーブの種よ。可愛い花が咲くし、リンゴみたいな匂いがしてハーブティーにしてもいいの。良かったら育ててみない?私と。」
そう言って空の鉢と種を見せた。農家のお爺さんから、虫よけに畑に撒くように言われた種の残りのようだ。畑を耕して…というのもおサエの現状を考えてあまり現実的ではないが、鉢植えなら…。よいきっかけかと思って提案してみた。
何かを育てるなんて考えたこともなかったが、おセンが一緒なら…と、おサエは恥ずかしそうに頷いた。




