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天狗 ~神眠る森~  作者: 東雲 景惚
使徒の目覚め
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60/100

黎明の始まり〜楽土求めたり⑤〜

 翌朝、深い眠りからおサエが起きたのは、もうすぐお昼…といった頃だった。ゆっくりさせてあげたいという思いもあったが、カラが流石に…と思い、声をかけに行ったのだ。城や公爵家とは明らかに硬さの違うベッドに布団なのに、こんなにぐっすり寝られるなんて…。

 その理由は、昨晩アヤの常宿だった旅館の食堂でささやかな歓迎会があり、そこで村の人達と食べた料理の美味しいこと、飲んだお酒の美味しいことと言ったら。あんなにチヤホヤされながら食事をした事などなかったおサエは舞い上がってしまい、いつもは上品なお酒しか飲まないのに、アルコール度数の強いお酒を注がれるがままに呑んでいた。安いお酒なのに美味しく思えたのだ。いつも家族の影に隠れていた身の上だったので、可愛いとか綺麗とか言われながら過ごす夢の時間だった。しかも兄としてアヤがさりげなく守ってくれる。夢のような時間だった。ただ箱入りのお嬢さんとだけ思われるのも問題なので、婚約者がアズマにいる設定にしておいた。それを知った若者たちのなんとがっかりしたことか。


 カラに手伝ってもらいながらも、できるだけ一人で着替えてリビングに行くと、おセンが言っていた通り、マイがブランチの用意をしてくれていた。


 アヤの行方を尋ねると、おセンの所に行った後、竜見城へ行くことになっているとのことだった。おセンは歓迎会には参加はしないものの、挨拶には来てくれた。若干酔っていた姿を見られたのは恥ずかしいが、自分のことを思って旅館の女将さんにアヤ兄妹のことについて今までのお礼と今日の会のお礼をしに来てくれていることに嬉しさがこみ上げていた。


※※※

 朝の畑仕事を終えたおセンは休憩に家の中に戻ってきた。朝方苗を植えるとき、アヤがすかさず手伝いに来ていた。昔から人手がほしいなと思う時を何故だか彪比古は訪れる。その後、今後の事や竜見城にいるとなっているため姿を見せておく必要があるために数日に1日は滞在を装わなくてはならないため、竜見城に向かって行った。

 マイがアヤの家に行っていて一人のため、静まり返った居間でお茶を飲む。それにしても昨日の歓迎会でのおサエの嬉しそうなことといったら…。今まで抑圧されていたものから解放されたからだろうか…。あんなに酒に強いとは思わなかった。この村の青年団の子達はほとんどがおセンの教え子であるので、大丈夫だとは思うが、隙があると続いてくる若者もいるはずだ。婚約者がいるとはいえ、警戒心がほとんどないおサエは危険だと思っていた。

 そんなことを考えながらお茶を飲んでいると、ロクがやって来た。昨日の歓迎会もロクがみんなに言ってくれて執り行われていた。ロクとしても、不逞の輩が深窓の令嬢おサエに言い寄らないための予防線として、公に紹介しみんなで大事にするという形をとったほうが良いのではないかという配慮であった。言わずもがなであるが、これはアヤに対する配慮ではなくもちろん昔なじみで心配しているおセンのためである。ロクの予想通りみんなは、親衛隊のようにアヤ兄妹を支えようということで落ち着いているそうだ。

 「それにしても…」

 ロクは、おセンに出してもらったお茶を飲みながら、言った。

「あのおサエという女性は、本当に危なっかしい人ですね。傍で控えているカラという人が可哀そうになりました。おセン様の昔馴染みなのでこちらとしては最大限助けはしますが、あんな世間知らずの人をいくら兄が付いているからと言って送り出す家族に疑問があります。静養…にしては、あれだけ飲酒もしていますし、もう少し自覚をもって過ごしていただきたい。」

 言われたおセンは、自分がその「家族」であるとは言い出せないし、ロクの言っていることがもっともであるため、申し訳なさが込み上げてきた。

「あの子は、寂しい生活をしてきたから…舞い上がってしまったのでしょうね。苦労掛けますねロク。」

 おセンは悟られない程度に申し訳なさをロクに伝えた。ロクは、おセンに頼りにされていることに嬉しさが込み上げてくるのであった。



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