黎明の始まり〜楽土求めたり④〜
公爵家の伴と別れ、準備をして竜見の村に着いたのは、もうすぐ夕暮れ時…という頃合いだった。
事前情報を得ていた村人たちは、アヤの妹に興味津々であった。チユに乗って現れたアヤが、馴染みの若者たちに手を振る。その後ろを馬車がついてきて、アヤがチユから降り、手を差し伸べると中から何とも美しい女性が降りてきた。藍染の着物がよく似合っていた。三姫は身元が判明することを恐れたため伊達の眼鏡をかけて生活することにした。この辺の人は眼鏡をかけている人があまりいないため、伊達であることには気付かれない。
三姫ことおサエが、村人たちについ微笑みながら会釈をすると、歓声が起きた。その声に驚いたおサエは、すっとアヤの後ろに隠れて恥ずかしそうにしているのがまた村人たちを沸き立たせた。あまりに沸き立たつので、アヤは
「病弱であまり人前に出たことがなかったんだ。それくらいにしておくれ」
と苦笑いした。
幼馴染としての設定のため、おセンも歓迎輪に入っていた。アヤとおサエの方が身分が高い設定なので、恭しく挨拶しているのを見て、おセン様がアレほど丁寧に迎え入れている相手なのだから、あまりからかってはならないと、おセン信者のロクが浮き足立っている若い衆に睨みを利かす。実のところはおサエとおセンの二人は姉妹なのだが、そんなこと誰も思わずに、ただ美しい2人が見つめ合うのをウットリと見ていた。
ロクは若い衆を代表してアヤとおサエに深々とお辞儀をして二人の家まで花道を作るように促した。
おサエはウキウキしながら歩みを進める。そして…白い屋根の家が見えた。こじんまりとしていたが、なかなか小綺麗な外観におサエは胸をときめかせた。
「ここが私の新しい家なのね…」
感動して言葉が漏れた。
頷きながらアヤが
「私たちが来ると知った自警団の人たちが綺麗にしてくれたんだよ。おセン様も家具のこととか相談にのってくれてね。」
と、ここがどうした、ああしたという話をうんうんと聞いているおサエは、本当にアヤの妹のようであったので、兄妹の設定が妙案だったとおセンは胸をなでおろす。
中に入り、兄妹の話は続いているようなので、とりあえず自警団のみんなには一度解散し、歓迎会で集まるようにおセンは、ロクに伝えた。
自警団の皆が散り散りになるのを確認してから、二人の新居に入る。二人はまだここに何があるかなど話しており、その後ろをこの中のことを切り盛りすることになるカラがあたふたしながらメモを持っている。
玄関を入ってすぐ居間があり、ダイニングテーブルがあるため、おセンはキリのいいところで座るように促した。
そのテーブルには、カラにも着座してもらった。恐縮しながら座り、まずはこの村に来たことの歓迎をした。そのあと、すぐにおセンはカラを見つめ
「ここは、城や公爵家とは全く勝手が違うから分からないことも多いでしょう。なんでも私やうちのマイやクシに聞いてね。明日の朝はマイがお手伝いに来るから安心してちょうだい。」
と優しく言った。
すると、カラはボロボロと泣き出した。三姫が勝手に決めたことに、ついていくと決めたのはカラだったが、そもそも貴族の出であるカラにきっと頼り切りになる三姫の世話と、勝手にわからない村の生活に一番不安だったのは、ほかでもないからであることをおセンは気付いていた。頼りにできる人が側にいることに安堵して泣くカラに
「カラはこんなに泣き虫だったのね〜」
と、事情の分かっていないおサエは笑ってみせた。




