黎明の始まり〜楽土求めたり③〜
いよいよ、竜見の村に行くことになった日…。公爵家総出でのお見送りとなった。公爵夫人は、まるで永久の別れのように涙ぐみながら三姫を抱きしめる。親の愛に飢えていた三姫にとって夫人に悲しい思いをさせてまで、静養に行くと嘘をついたことに罪悪感はあるものの。これからの生活に対しての期待感で笑みがこぼれそうなのを押し殺して、儚げな笑顔を夫人に見せた。公式には最初の竜見訪問なので、今回は彪比古も一緒についていくことになっている。我が妻を静養先に送り届けるという話を騎士団にしたところ、安心していってきてよいという、団長から特別休暇をもらったため、堂々と竜見に行くことができる。
話すかどうするか迷ったが国王には、たまに姉のところでリフレッシュしたいということをぎりぎりで彪比古が代理で伝えた。その際に、仲姫に再会していたことなど、チクリチクリとぼやかれたがそれは彪比古自身申し訳ないと思っていたので甘んじて嫌味を聞いた。王家直轄地の竜見であればいいのではないかという深い深いため息のあと、許可をもらい彪比古は胸をなでおろした。
新婚旅行にも行かなかった二人は、初めての旅行になる。静養先から途中本山に帰るため、彪比古は愛馬チユに乗っての旅立ったが、それでも三姫は三年間願っていた「夫婦らしいこと」を今更できていることに少し笑いがこみあげてきた。以前内密に竜見に向かったときはできうるかぎり馬車を走らせてもらっていた。今回は昔から世話をしてくれている小雀が同伴してくれる。ここまでの経緯をすべて話して、少し驚いた顔…呆れていたかもしれないがそれでも、竜見の村で下女のような恰好をすることになろうとも、共に来てくれると言ってくれたことに三姫は感謝している。小雀を三姫は「カラ」といつも呼んでいたので、そのまま竜見でも「カラ」と名乗ることにした。
ちなみに、三姫はというと真名は「貴鳥」という名であるため、鳥にあやかった名前にするか迷ったが、兄として「アヤ」が存在しているため、そちらに寄せた名前にしようということになった。なので、二文字の名前にすることとなり、ついでに鳥の囀りから「サエ」と名乗ることとしたのだ。
楽しみしすぎた旅はあっという間で、竜見城に着いた。公爵家からついてきた。供の者はここで別れ、一度二人は入城した。中には、事情を知っている仲姫の女官たちが待っていた。つい半年前まで、彪比古が何度来ても、仲姫に取り次ぐことを頑なに拒み、なしのつぶてにしていた女官たちが、そんなことなかったかのように深々とお辞儀をして、中まで案内してくれ、貴族の煌びやかな衣装からの変更を手伝ってくれる。もちろん彪比古は一人で着替えるが、着替えている部屋はいつもいるはずのない仲姫への取次ぎを待つために待機を余儀なくされていた部屋であったことで、そしらぬふりの女官たちからの謝罪とも取れた。全て三姫にバレてしまったとはいっても、視察のたびに何度もここで謁見を申し出ていたことは、何度かとほやかしたが、どこまで気が付いているのか。今更バレるのは恥ずかしいなとも思っていたので、女官たちのそしらぬふりに、なんとなく安堵もした。
衣装の準備ができた三姫は、初めて着た質素な服に興味津々のようだった。
「民とともに生きるということは、格好もそうしなくてはということですものね。」
姿見を見ながらにこやかに話す三姫に彪比古は頷いた。しかし、村の誰よりも上質な藍染の木綿の着物衣装であることに彪比古も女官たちも口にすることはしなかった。




