始まりへの門出〜覚悟の依願⑤〜
小公爵と三姫の話し合いは、深夜までおよんだ。3年という長い夫婦生活で、向かい合って会話をしたトータル時間を優に超える程であった。
自分のことを慕っていたと思っていた三姫が、実のところ、憧れている姉のもう一つの道…であったかもしれない、小公爵との結婚を姉の代わりに成し遂げたかっただけであった…という、何とも滑稽な話し合いの幕開けであった。
正直、王太子に次いで見目麗しい貴公子であると皆が言うものだから、絶対に三姫が自分を愛していると信じていた。そして好かれてもいないのに拒んでいたという、謎の行動と悩みであったと彪比古は自分で自分を嘲笑った。
そして、三姫も彪比古に対して懸想していたのだと思っていたが、姉に会ってみて、自分が側にいたいのが姉であること、何のために父王に泣きついて公爵家に嫁いできたのか…。他国に嫁ぎたくないためだったのか、姉に取って代わりたかったのか…。とにかく彪比古を巻き込んだことは事実で、なんと傲慢で浅はかな考えであったかと恥ずかしく思っていた。
離縁したいという話し合いのスタートであったが、三姫が望むことが、「姉と過ごしたい」であるらしいということが、長く話していてようやくわかった。しかし、それは三姫には言わずにいたが彪比古も望むことであった。離縁することよりも、お互いにおセンの側にいるためにはどうしたら良いのかについて話の方向が変わっていった。
まず、お互いおセンと共にいたいのであれば、協力をしなくてはならないということである。そもそもこの結婚をして、おセンを大切に思う2人が一緒になったのだから、おセンのために何かしようとするならばメリットしかないのだ。つまり、三姫の意を決した覚悟の離縁申請は棄却されたのだ。しかし、三姫は納得した。確かに独り身になって、姉のところへ行ってもただ迷惑をかけるだけであると思ったからだ。
次にするべきことは、あの村に拠点となる家を構えることである。彪比古は幾度かの訪問で手頃な家を見つけていたが、伴を連れて行くつもりがなかったために単身向けの家であったためこの家では難しい。その話をしたら、三姫は抜け駆けだと怒っていたが別の家を探すことに納得してくれた。自立しているおセンですら1人は常駐で仕えている。それを思えば少し大きめの家を考えなくてはならない。この件は次に村に訪れた時に、村長に相談してみることで落ち着いた。
そして、あの村に行く際二人の関係は何とするのが良いのかについて話し合った。
夫婦…にしては全く関係性ができていない。しかもおセンの妹だとなると、おセンに確実に迷惑をかける。三姫は顔バレしている可能性が高いし、立ち振舞が完全に、貴族令嬢以下には見えない。しかも三姫を見たことのない人でも、結城の王族の麗しさと言ったらそれはとんでもないものである。そんな王族が2人もいる村なんて、それこそ噂になってしまう。
変装するしかない…これが結論である。髪型…は、既におセンが肩あたりまで髪を切落とし、剃髪しているので違う髪が余儀なくされる。美しい三姫の髪に手を加えてみてはという提案は、彪比古にはできなかった。今後、どんな格好にするか検討する必要がある。
そして、何よりこの2人の出した答えを、おセンに伝え許しを得ねばならない。おセンは、いい顔をしてくれるだろうか。もろ手を挙げて…とはいかないことは分かっている。でも、それでもおセンが受け入れてくれる期待を持ってしまうのは自惚れだろうか…。そう思う彪比古であった。




