黎明の始まり~楽土求めたり①~
暦は進み、年明けから例年になく降った雪は落ち着き、ここ、竜見の村は結城の中でも南のほうに位置しているため、すでに春の暖かさを感じる日も少なくない。そんな竜見の村に見慣れぬ新居者が村の外れにやってきた。
一人は、一年近く前からよくこの村に現れる「アヤ」という男で兵士をしている。馬も乗りこなしているので、なかなか位は高いようである。竜見城への伝達などもしており、ここに立ち寄ることがあるようで、偶然昔なじみのおセン様に出会ったことから、長らく暇を見つけては宿屋に泊まり村のボランティアを買って出ていた男である。自警団の中の青年部の男たちともすっかり打ち解けているため、中には「やっと家を用意したのか」というものもあれば、「いつか来るとは思っていたが…やっぱり来たのか」と内心おセンファンの男どもは気が気ではない。おセンは、若くして未亡人になった裕福な御大尽の家の娘で、早死にした夫に操を立てるためにおそらく美しい髪を肩より上あたりまでで切りそろえ、男を寄せ付けない。しかし、その美しさと言ったら天女のようである。動きやすいからと麻の衣に袴姿であっても美しいのだ。そんな彼女の幼馴染がうろうろしていることを快く思わない男など既婚独身問わず大勢いるのだ。しかし、噂だと彼は妻帯者らしい。しかし、どんな人か聞いても絶対口を割らないというので、本当に既婚者なのかは誰も知らないらしい。アヤは仕事を辞めることはできないので、休暇のたびにここを訪れる別邸として家を買ったという。いやはや金のある男はこれだから…。
もう一人は、アヤの妹だという女性で、病弱らしくあまりアズマの屋敷から出られず過ごしていたというが竜見の自然豊かな環境で過ごしてほしいとアヤが連れてきた。彼女もまたおセン様の幼馴染らしく、とてもなついて見える。女中を一人連れてきている。
というのが、この村の人に伝わった2人の素性である。
考えあぐねた結果、夫婦としてここに来るには無理があるという結論に至ったのだ。夫婦とすることも考えたのだが、夫婦共に中の良いおセン…しかも三姫は姉ときっと呼ぶ。2人はあまり似てはいないが、とてつもない美形の姉妹ということがバレればまことしやかに王族であることを疑われても仕方なくなる。
だとしたら、とんでもないお大尽の御令嬢というおセンが親同士で仲が良く昔馴染の中流貴族の兄妹という設定が一番無難ではないか…
というのが、彪比古とおセンの結論である。手紙でこの二人ともに村に住みたいなどという荒唐無稽な結論を読んだとき、三姫が帰るときに見せたあの笑顔に彪比古が負けたのか…と深い溜息をついたが、二人に任せていては、自分の身も危ういと思ったおセンが知恵を貸すこととなった。
おセンの協力が得られると知った三姫がどれほど喜んだことか…。とにかく、愛馬チユをとばしては、竜見に行き、村長に住まいの相談をしたり、おセンと綿密な設定を考えた。彪比古にとって騎士としての仕事との両立は、更に過酷となったが、三姫に隠れてもともと竜見には来ていたわけだし、隠さなくていい分気が楽であったし、ここに住むという目標に向かって毎日が充実していた。




