始まりへの門出〜覚悟の依願④〜
あれは4年前、王太子の結婚が決まった頃だったか。三姫の懇願により、小公爵こと彪比古との婚約が決まった。つまり、彪比古は多少なりとも三姫が自分のことを愛しているのだと思っていた。少なくとも今日この時までは。
だから、彪比古が本当は仲姫ことおセンに会いに行っていることにショックを受けて1週間いなかった三姫が、公爵家に戻ってきたら、いよいよ本当の夫婦になるのだ、覚悟を決めねばと思っていたくらいだ。
なので、「離縁」を三姫から提示されるなんて思ってもいなかったのだ。
その言葉を聞いた彪比古は、フリーズしてしまった。それほどまでに、三姫を追い込んでいたのかという思いと、三姫が自分を愛していると思い込んでいた自分へのショックと、陛下になんと伝えたらよいか…。父や母にもどう弁明したら良いのか、冷静に定評があるはずの彪比古も全く思考が追いつかない。
「離縁って…。どうして急に。私が無断で竜見に行っていたことに憤慨されているのなら謝ります。」
ようやく出た言葉がそれであった。
三姫は、こういう類いの冗談はつかないため、かなり彪比古は焦っていたのだ。
三姫は、彪比古の言葉に首を横に振る。そして、口を開けた。
「姉様に会ってまいりました。」
その一言で彪比古に、衝撃が走る。何もできない籠の中の姫君という印象の三姫が、この1週間で竜見まで行って帰ってきている。彪比古だって愛馬チユに無理をしてもらって片道2日…かかるかどうか。おそらく馬車てそのスピードは身体に堪えただろう。そうかだから仮眠をとっていたのかと、変なところを納得してしまっていた。
「私は、姉様と彪比古さんが共に過ごされているのを見るのが好きでした。…お二人の関係に強く憧れていたのだと、姉様に会って痛感いたしました。」
三姫は、話を始めた。姉、おセンに会って感じた強い感情よりも、3年過ごした曲がりなりにも夫である彪比古への配慮も交えながら。
「ただ、あの頃の二人のようになりたかった。…そして、姉様に会って…どんな形でも姉様と共にいたいと思ってしまったのです。」
責められると思っていたのに、むしろ自分が悪いと言わんばかりに話す三姫に驚きしかない彪比古は、「そんなの私もです」と思いながら、ただただ聞くしかなかった。
「公爵家に嫁いだのに、王族直轄地にずっといることは現実的に難しいなら、私が退くしかないのかと…。」
彪比古は、はっとした。三姫はおセンの「側にいたい」気持ちは直接的に「側」にいるために竜見に行こうとしているということなのかと理解したのだ。
「気持ちは分かるが…」
そう言うと、彪比古は少し咳払いをして、気持ちを落ち着かせた。
「あまりに現実的ではないよ。離縁も移住も…最善の策を考えよう…」
お互い夫婦になってこんなにも意見を出し合うことになったのは、おそらく初めてのことであった。




