始まりへの門出〜覚悟の依願②〜
三姫は、この村に駆けつけるまでの3日間ずっと考えていた。彪比古が姉に会いに行っていると知ったとき、彪比古の裏切り行為を心配するよりも、自分に内緒で姉に会いに行っていたことへのショックが大きかった。しかも、父王から彪比古との間で視察団にいるときは離席し、竜見の城に行ってもいいという許可までとって、三姫と婚姻する前から、実際は途中から姉のいない竜見の城に行き、何度何度も謁見を求めていたらしい。でも、それを聞いても彪比古の心がまだ姉に向いていることにショックを受けることはなかったのだ。
むしろ、そんな約束をし、姉の居城に何度も行っていたことに対して怒りが込み上げてくるのだ。
三姫にとって姉といつも一緒の彪比古に対して幼い頃から憧れがあったことは事実である。しかし、今更ながらある結論に至ったのだ。
姉といつも一緒の彪比古が羨ましかった。
姉に取って代わりたいと思っていたと思い込んでいたことがそもそもの間違いだったのだ。
姉が竜見の城に籠もった後、三姫はひどく落ち込んだ。それは、姉の幸せを願って泣く泣く別れたのに、こんな悲劇に見舞われるなんて思いもよらなかった。こんなことなら、何としてでも引き留めて置けばよかった。そして、その思いは彪比古が姉を連れ去ってくれればよかったのにというすり替えになり、「彪比古」に対しての恋ではなく執着が始まったのかもしれないと思ったのだ。いずれ公爵となる彪比古は、婚姻をしなくてはならないだろう。しかし姉以外の人と幸せになるなんてどうしても許せなかった。
姉のもしかしたらあったかもしれないもう一つの選択肢を自分が姉に成り代わりたかっただけなのかもしれない…
三姫は、そんなことを思いながら竜見に向かっていたのだ。実際、十年近くぶりに会った姉は、あのころもあまり綺羅びやかな服装はしていなかったが、更に質素な格好で、武道をしていた頃のように袴姿が美しかった。やはり私が一緒にいたいのは姉なのだと確信してしまったのだ。
※※※
突然の残留したいとの宣言を受けて、おセンは驚いた。あの内気な妹が突然押しかけてきたことも驚いた。
「それは…現実的に無理ではないのかしら。」
というと、三姫は食いかかるようにおセンの前まで行き、
「どうしてです!?今日会って、やはり私は姉様と一緒にいたいと思ったのです。」
と涙ぐむ。
困った顔をしながらおセンは言った
「勿論大事な妹だもの。一緒にいられたら素敵だろうけど、貴女は将来公爵家になるのよ。公爵家の領地でもないこの場所にずっと住むのは難しいわ。お付きの者だって付けられで一人か二人が限度でしょう?」
確かに、おセンは世間では世捨て人として周囲に認識されているため、この村で庶民として過ごしていても誰も気にすることはない。しかし三姫は別だ。姫御寮人として国中から認知がある。今、出奔したら「居場所」をくれた公爵家に迷惑をかける。冷静に考えれば分かることだ。
「でも…自立したり、公爵家に迷惑をかけないようにしたりすれば、姉様の側にいることは可能になるということでしょうか。」
そう言う三姫におセンは
「まずは、彪比古さんに相談なさい。貴女の伴侶なのだから。」
と三姫に言った。聞こえているのかいないのか、それに対しては何の反応もしない三姫は、はっとした顔をして、
「ここに来るなら名前…決めないとですよね。どうやって決めようかしら。」
おセンは、全く諦めない三姫に、こんなにこだわる子だっただろうかと、会わなかった時間の大きさを感じていた。




