始まりへの門出〜覚悟の依願①〜
おセンの所に来ている子供たちは、今隣村の子も合わせると全部で12人いる。今の時間は村の子は家に昼を食べに行き、隣村の子達はガジェットで家から持ってきた弁当を食べている。いつもなら食べ終わると母屋にやってくる子もいるのだが、今日は来客だからとマイに見てもらっている。
ようやく泣き止んだ三姫におセンはお茶と朝作っておいたサンドイッチを前に出した。
「良かったらどうぞ。お茶温かいわよ。」
そういうとおセンはお茶を一口飲む。
三姫は、公爵家に嫁いでからも一度たりとも自分でお茶を入れたことがない。いつも飲んでいるお茶の方が確実に高級なのに、おセンの淹れてくれたお茶は口のなかに味が広がり冷えた身体を温めてくれた。
「美味し…姉様は…お料理もされるのですね…」
そう言われておセンは微笑む。
「そうね。…でも、ここに来て、初めてお茶も淹れたし、一人で全部着替えをしたのも始めてだったわ。料理は焦がしたり、味がしなかったりしたことも何度もあるし、今でもするわ。…一人じゃ出来てないわね。マイがいてくれて、村の人がいてくれて…だからやれてるのよ。」
そういうと、サンドイッチを一口食べた。上手に出来ていたみたいで、三姫にどうぞどうぞと手で促す。
サンドイッチはハムとチーズのシンプルなものだった。それでも、三姫が食べたどんな豪華な料理より美味しかった。
「お名前…変えたのですね…姉様…ずっと…ずっと…お会いしたかったです。」
三姫は、おセンに思いのこもった言葉を投げかけた。おセンは少しうつむいた後、意を決したように三姫に向いた。
「ごめんさないね。貴女からたくさんお手紙もらっていたことも知っていたのに…。竜見の城にいたときは、手紙もままならない状態だったし…。ここに来てからは…。元気になったとか、今やってることとか書けないからね…。嘘は書けなかったのよ。名前…そうね。ここではただの人だから。漢字の…ましてや音読みの名前なんて必要ないのよ。何もできない私を受け入れてくれた人たちと生活していると、まだまだ知らないことばかりだけど、楽しいって思えるのよ。華も咲かない女だけどそれでもここにいていいのかもしれないって思える。」
そう言うと、すかさず三姫は
「では、姉様はここに留まるのですか。」
と、尋ねた。
三姫は、本山に戻ってきてほしいのだろうか?昔から仲姫にくっついて離れない可愛い妹であった。伴侶を得た今でも家族が恋しいのか…姉を心配しているのか…困惑したが、おセンの答えは決まっていた。
「ええ。この村の人がいていいって言う間はここに留まりたい。…それにね、この村は神宮が近くて…あの頃混乱に紛れて彷徨った子達がここに辿り着いたことがあったの。あの国のためにできることがまだあったって嬉しく思ったわ。」
そういうと森の方を見つめた。
遠くを見つめるおセンを三姫はじっと見つめた。ずっと会いたかった姉…。公爵夫人との1週間の約束のため、遅くても明日には帰路につくことになる。これでお別れは絶対に嫌だ。そう思った三姫は、無意識に呟いていた。
「私も…この村に住まわせてください。」




