始まりへの門出〜知らずの憂慮④〜
三姫は、彪比古との話を早々に切り上げ自室に戻った。本来ならもっと話を聞きたいところだが、数時間後に出仕する彪比古のことを思うと数時間でも仮眠をとってほしいというのが大きな一つの理由だった。一つの大きな理由は、彪比古が通っている村に姉がいるということがどうしても処理できなかった。
偶然、彪比古はそう言った。我々身内でも竜見の城で生活していると思っていたのに、村に降りてきている。身分を隠しているとはいえ、王族の姫がそんなことできるのだろうか。公爵家に降嫁した自分ですら、王族との違いに悩むこともあるというのに…。庶民に紛れるなんてことができるのだろうか。
三姫にとって、仲姫は誰よりも愛おしい家族であった。憧れであり目標だった。彪比古が隠れて会いに行っていたこともショックだが、自分が姉に会いたいと思う気持ちも抑えられない。
彪比古が姉を慕っていたことはよく知っていた。その気持ちを利用して、この家に嫁いだのだ。偶然とほ、何をもっての偶然なのか…。
三姫は、彪比古を夜を徹して待っている間、どこか他に大事な家族を作ってしまったのかと思っていた。愛おしいお妾と睦まじい生活をしているから誰にも言わないで休みを取っているのだと。
それが違ったことへの安堵感と、また姉を慕う彪比古の姿がちらつき頭を悩ませたのだ。
あの輿入れに向かう晴れ晴れしい姉の笑顔が昨日のことのようである。勿論明日は我が身と、自分可愛さに彪比古の弱いところを突き結婚したが、この10年姉を思わない日などなかった。
彪比古から話を聞いた直後からずっと抑えていた姉への思いが再燃し、朝まで寝付くことなどできなかった。ほとんど寝ないまま、三姫は朝を迎えぼおっとしながら朝の支度をすることとなった。
公爵夫人の待つ奥の間へと向かい朝の挨拶をした。明らかにいつもよりぼんやりとする三姫の様子に、夫人は何か言いたげではあったが何も尋ねなかった。
彪比古もやってきたが三姫同様にあまり寝付けなかった顔をしていた。朝食はほとんど食べずにお見送りをした後、意を決した三姫は公爵夫人に1週間の暇を願い出た。家族のため…と伝えて。
公爵夫人も何やら思うところはあるようだったが、妹のことかもしれないと思い、少し考えた後頷いてくれた。
三姫は、まず本山の城へと急いだ。前触れもなく訪れることなんて輿入れ以来なかったが、火急の要件と言い、陛下への謁見を願い出た。
突然のことだったので、しばらく待つこととなった。静寂な城から国を見渡す。あの何処かに姉がいる…。
そう思うと待つ時間も惜しくはなかった。
本当にしばらくたって、ようやく謁見の間へ通された。
父王に会うのはいつ以来だろうか。相変わらず美しい容貌をしていた。
恭しく挨拶し、前触れもなく訪問したことを謝罪した後、人払いを頼んだ。
可愛い娘の突然の訪問と人払いに驚いたが、すぐに父王は対処してくれた。
誰もいなくなったことを確認した後、三姫は
「仲姫の所在をご存知でしょうか。」
と話を始めた。
驚いた父王だったが、仲姫が竜見の城にいないことは、朱山公から聞いていた。仲姫のためには、場所を変える必要があると。しかし、正確な場所までは朱山公への信頼もあり聞かずにいたため、なぜ三姫がこんなことを言うのか、どうして知っているのかということに驚いたのだ。
そうとは知らない三姫は、父王も仲姫が竜見の城にいるのだと思っていて驚いたのだと思い、話を続ける。
「どうか…姉上の安否をこの目で確かめさせてくださいませ…」
三姫はそういうと深々と頭をさげたのだった。




