始まりへの門出〜知らずの憂慮③〜
公爵家に彪比古が戻ってきたのはもう、夜が明け始めた頃だった。愛馬のチユには悪いが夜通し走ってもらいなんとか帰ってくることができた。雪も大分溶けていたのが幸いした。
さすがの公爵家でもこの時間はまだ使用人も起き始めてはいないようで安心した。音をたてないようにゆっくりと自室に向かったのに、自室から明かりが漏れていた。
出かける前に付けたままだったのか…。いや掃除に入る使用人たちが消すはずである。しかし、誰かがいるかもしれない。そう思いながら脇指しの剣に手をかけながら入室した。
入ると暖炉に火がともっている。暖かい…。冷える夜道を何時間も走ってきたのだ。じんわりと温かみが増す。暖炉に手を当てて部屋の中をうかがってみる。奥にある椅子に人影があった。
三姫だった。入室からずっとこちらを見ていたようで目が合った。驚いたが曲がりなりにも妻が部屋にいることはどの可能性の中でも一番安心のことだったと思った。
「ずっと待ってくれていたのか。暖炉をつけながら」
そういうと、三姫は頷いた。
「明日から…いえ、もう今日でしょうか。ご勤務と聞いていたので、どんなに遅くてもお帰りになられると思いまして。」
とつぶやいた。
その内容に、彪比古はどうして勤務していなかったのかがバレているのか驚きを隠せない。
「先日…妹のところに輿入れ前の挨拶に行ったところ、お休みを取られていることを知りました。」
三姫が小さな声で話しているのを、休んでいたことがごまかしがきかないバレ方をしていることにせっかく温まった体に冷汗をかき始めた。
「私以外にはことのことは言っていません。まさか、仕事を休んで行方不明など…。警備隊の方と一緒かもしれないと言われたので、出過ぎたことかと思いましたが妻として心配でしたので確認に参りました。でも…」
言い訳ができない状況なことにますます、冷汗が止まらない彪比古に、三姫は続ける。
「私には言えないこともあるのかもしれないですが、やはり立場ある方ですので不用意な行いは妻として心配をいたします。あなたが他に行かなくてはならないところがあるとして、私は知ることもできないのでしょうか。」
夜中に、暖炉に薪をくべながらずっと待った挙句のこの訴えに、彪比古は自分の浅はかな考えにとても反省をした。おセンに会いに行っていることは間違いないが、三姫が勘ぐるような深い中ではないが、あの村にいることを知られたくないと思ってるおセンを守りたいが、ここまで追いつめていしまった妻に対しても申し訳なさが募る。
「心配してくれていたのに、不用意な行動をしたことを申し訳なく思う。」
彪比古は、三姫に向かって深々と頭を下げた。そして、視察に行ったときに大雨で滞在していた村が雪深いため、恩返しに行っていた話を三姫にした。三姫は、うんうんと話を聞く。
暖かい人たちに、自分の身分を明かせていない話、あまりに居心地がよく数カ月に一度訪れていること、いつか、その村に小さな家を別荘として持ちたいと思っていることを話した。
「今度その村に行くときは、私にお伝えくださいませ」
そういう三姫に、彪比古は頷く。
「もしもその村に家を買うときは…私も連れて行ってくださいますか」
そう尋ねる三姫に、少し考えた彪比古は観念して伝えることにした。
「連れていくことはできる。できるが、きっと驚くことになる。…私の御あるその村にある人が身分を隠して住んでいるんだ。君にとっても私にとっても会いたくても会えなかった近い人。君の姉君が。」
そう伝えると、三姫は驚きを隠せない目で 彪比古を見つめるのであった。




