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天狗 ~神眠る森~  作者: 東雲 景惚
萌芽の予感
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始まりへの門出~一抹の不安③~

 後日、城の末姫に登城の伺いを立て、日柄の良い日を選んで城に伺うこととした。父王と母后には改めて会わなくても良いか…内々のお祝いであるし…という判断の元、姑の公爵夫人には伝えたが朝食時の家族への話題にはしなかった。行くと伝えた日の2日前に結城には珍しく雪が降り積もったため、昨日であったら本山の山道は登れなかったなぁと輿に乗りながら三姫は思った。輿を引く馬も従者もいつもよりも慎重に山を登ってくれているのが分かった。


 いつもの3倍の時間を要して、場内に入った。久しぶりの登城だがここが実家と言うのも変な感じだと少し笑いがこみあげてくる。幼少期は、母の実家のある公爵家で過ごしていた。あちらで過ごしていた記憶も残っている。本山内の公爵屋敷で過ごしていたため、おそらく城よりものびのびと過ごしていたため、母が末姫と三姫を連れて城に戻るとなったときは、とても緊張したものだ。青池公爵家は、叔父が継いでいるがそちらの方がやはりほっとするというのが正直なところなのだ。


 西の館に向かう。嫁ぐまでの間ここで過ごしていたのに、もう別の場所のように感じた。自分の家は白峰公爵家なのだと改めて思う。優しい義父母に尊敬する夫、癖はあるが気にかけてくれる義弟。ここよりもずっと人としての生活ができていると思う。たとえ、普通の夫婦の関係ではなくても、夫は大事にはしてくれている。特に、使節団で行方不明になった以降は、今まで以上に慈しんでくれているように感じる。行方不明と聞いたときは血の気が引いていくのを感じたものだ。何日も食事がのどに通らずにただただ祈るばかりで、無事の帰還に公爵夫人と泣きながら抱きしめあったものだ。

 そこまで心配してくれると思わなかったと、夫の彪比古は申し訳なさそうな顔をしていた。夫婦の営みがなくても、絆は深まっていると感じられたのだ。


 末姫の居室にたどり着くと、愛くるしい笑顔でこちらに小走りで寄ってくる。満面の笑みで、


「お姉さまが来るのを心待ちにしていましたのよ。」

と手を取って言ってきた。


 雪のせいで来るのが遅くなってしまったことを謝罪し、二人は椅子に座る。いつまでもにこやかな末姫を久々に見たが、三姫はなんと疲れる相手なのだろうと我が妹ながらに思ってしまうのだ。三姫には、他人にどう思われるか気にして過ごしている末姫が哀れにすら思えてくるのだ。特に自分が嫁いでからは、余計に感じてしまう。しかし、これが妹のライフワークであるし、これを武器に鬢胡に行くのだから応援しなければいけないと思ってここにいるのだ。

「結婚祝いは、たくさんの方たちからもらっていると思うのだけれど…」

三姫はそう言って、袋を取り出した。

「一人でリラックスするときに使ってほしいと思って用意したの。私も色違いのものを使っているのよ。」

渡した袋を末姫が開けてみる。上質なレースを使ったショールであった。渡されたレースの端には、薄桃色で鈴のような編み込みが見て取れた。三姫が使っているのは黄緑色で鳥が羽ばたいているような編み込みがされている。結城の姫は嫁ぐと自分の御印を基本的には使えなくなる。だからこそはっきりとわからなくても鈴のような編み込みをしてあるそのショールは、持ち出すのにはぎりぎりセーフと言ったところである。三姫はショールを姑の公爵夫人からもらって大切にしているのだ。

「鬢胡はそこまで肌寒くはないかもしれないけれど、慣れない土地では体を大切にしてほしいから…」

そう言う三姫の話が聴こえているのかいないのか、ショールをぎゅっと握りしめて末姫は

「どの贈り物よりもうれしいわ。お姉さま。」

と、少し涙ぐみながらほほ笑んだ。三姫が見た末姫の笑みの中で一番自然なものであった。


愛想を振りまいているだけの妹だと思っていたのに、実際は不安もあるのだろうと三姫は、実際の末姫は思っていたイメージとは異なるのかもしれないと感じた。嫁ぎ先で頑張ってほしいと三姫は初めて思えたのだ。


 正直、結婚式で身に着けるものを贈ろうかとも思ったが、彪比古との夫婦生活は正しいものではないため、知らないにしてもそんな姉からもらいたくないだろうと遠慮したが、これが正解であったと三姫は、この城に住んでいた時は毎日飲んでいた懐かしい紅茶を飲みながら思った。


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