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天狗 ~神眠る森~  作者: 東雲 景惚
萌芽の予感
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麗しき一族~張子の王子⑤~

 そうこうしているうちに、結城の王太子は婚約者がいないということが、諸外国に知れ渡ってしまい、結城の国に興味ある国々が婚約者の地位を求めて結城を訪れるようになった。結城の王子は基本的には国内の令嬢から妃を見つけるのが習わしだが、こうなってしまうともうどうにも収拾はつかなくなっていた。


 結城は古より続く名家。新興国としては姫をもらい受けたいと思っていたのに、輿入れする機会がやってきたとあれば、もう戦争になるのでないかというほどであった。これにはさすがの王太子も困り果てた。


 彼は本当に妃を選べなかっただけなのだ。それがこんなにも大事になってしまって自分のせいで、戦争が起き誰かが死んでしまうようなことがあったらと考えただけで胸が痛む。王太子は、この婚約者騒動で体調を崩し、私室にふさぎ込むようになった。


 なので、社交の場に出なかったというよりも、出られなくなったというのが正しい表現なのである。彼が成人に当たる元服をするときは、なんとか病床から会場に現れた。本人は、苦しい思いで出向いたが、悩み多き王太子のやつれた姿に更に王太子狂いになる令嬢が増えたと言う。なんとも罪深い話である。


 この状況に変化が訪れたのは、王太子が17になる頃のことだった。突然親交がほとんどなかったシャンバラ神州の太守から火急の知らせが入った。


 巫女姫、神託を授かる。

 結城の国へ嫁き、平和のために尽くせ

 ついては、王太子亮月殿下との婚姻を申し出たい。


神宮の森を挟んで東と西の反対に位置する国からの突然の申し出に驚いた。シャンバラ神州は、神宮におわす神を信仰しており、その国の姫君はそれぞれシャーマンとなるべく教育されている。特に二の姫君は素質が高く、神州を継ぐとまで言われていたのにも関わらずどうも相手は二の姫らしいとのことだった。


 王太子の婚約騒動は、それこそ王太子が言っていたように今となっては、どこかの国から選べば、他の国のやっかみを買ってしまうところまで来ている。しかし、シャンバラの神託と言えば、皆黙ってくれる…。そういった打算もあってこの話を王太子は受け入れることとし、王も納得してくれた。


 シャンバラから嫁ぐ前に、館の在り方や生活の仕方何度いちいちこまごまと姫君の取り扱いについて指導が入った。姉上たちが嫁ぐ前に迎え女官からいろいろ教わってその国に馴染もうとしていたのに、自分のスタイルを全く変える気がないシャンバラの巫女姫に驚きしかなかった。しかし、母である王后はさすがにシャンバラに指摘をしてくれたようであったが、


迎え女官はいらない。最後の修業が忙しいので嫁いでからいろいろとご教授願いたい。


とそれだけが返答された。

母に逆らえる者などこの世にいないと思っていたから、王太子は心の中でなんて豪快な国なのだろう。そして、この姫に会ってみたいという欲求が芽生えていた。


 今までの人生、言われるがままの繰り返しであった。両陛下からは可愛がられたのは事実だが、絶対に姉二人のような特技があれば…思われていたのは分かっていたし、臣下たちからも、大姫のように、仲姫のようにと言われ続け温厚な王太子でも姉二人のことを嫌いになりかけた時期もあった。自分ができないことがいけないのか、できすぎる姉二人が悪いのかもう分からず、会えば口にはしないが自分の方が賢王の器であると言わんばかりの大姫と「王太子」であるはずなのに全く興味のないような仲姫の態度に、歯向かう気もなく、ただただ笑顔を振りまくことしかできなかったのだ。

 大姫の嫌味に笑顔で返すが、幼い身の上には堪えられないこともあり、茶会を抜け出して庭を眺めていると、ほとんどの場合仲姫がやってきて、最近あった話など茶会ではできないようなくだらない話を一通り話して去っていく。王太子ならばとったような叱咤激励などは全く仲姫からはされなかったし、慰めようという気もあるのかないのかわからないただただ日常の話をして去っていた。とにかく、王太子の周りには癖のある女性しかいなかったのだ。

 すぐ下の妹は、部屋にこもっては楽器を黙々と奏でているのに、茶会では失敗を恐れてほとんど演奏をしなかった。一番下の妹は、確かに愛らしいがそのことを自負し高い自己肯定感を必死に隠し、可憐で美しい姫を演じている。だから二人にはそれぞれ彼女たちがほしい言葉をいつも送っていた。三姫には

「三姫の音色は特別だからね。毎回演奏しなくたっていいんだよ。だって特別なんだから。」

と言い、末姫には

「僕の愛妹は本当に天使のようだね。」

と褒めたたえた。彼の才能は、嫌味にならないようにする人たらしというところだろうか。

相手が不快にならない言葉を選んで返すことが一番穏便に行くことだと思い、生活してた。


 東の館の改装が終わり、婚約期間から巫女姫は結城に留まることになる。婚姻までの期間は約一か月しかなく、異例だったがこれもまた神託によるものらしい。

 初めて巫女姫ハーゼ姫を見たとき、彼女は長いベールに包まれていて顔は全く見えなかった。しばらく外交に出ていなかった王太子よりも、姿を見ることは稀なその姫君が拝謁の礼を両陛下と王太子に行う。そのしなやかな動きは、まるで踊っているかのようで王太子の胸は高鳴った。

 初めて二人になったときに、ベールの下を見ることはできないのか聞いてみた。婚姻するまでは見せられないと言われた。こんなに楽しみにすることも今までないのではないかと言うくらい、一か月後を楽しみに過ごした。

 婚姻の日、彼女はどうしてもシャンバラの衣装が着たいと言って婚礼に臨んだ。なんとも美しいいで立ちだった。婚姻を国中に祝福してもらいながらも、巫女姫は公の場にでることをあまり良しとしていないのか、一歩引いて国民に手を振っていた。

 式が終わり、寝所に入るとおずおずとベールを外して見せてくれた。結城の王族は、どちらかというと皆くりくりとしたアーモンドアイであるが、切れ長の涼し気な目をしていた。王太子は、これからの人生を共にする大事な妃に歩み寄って手を取ったとき、妃に謝罪をされる。


 申し訳ございません。今日は満月。この国の繁栄を願い祈祷しなくてはなりません。


 そういうと、またベールをかけて部屋を出ていこうとする。さすがの王太子も驚いたが、礼拝儀式をおろそかにさせないという条件があったことを思い出す。


 そうか。残念だけどこれから暮らすこの国のために祈ってくれるのだから頑張ってもらわないといけないのだろうが…。妃と過ごせる日を心待ちにしているから


と耳元で伝えた。巫女姫は驚いたように耳を触ったが、足早に部屋を出て行ってしまった。


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