麗しき一族~張子の王子②~
生まれてからというもの、ほとんど人に会わずに過ごしてきた末姫にとって、出会う人にどう思われるかが大事であったが、兄である王太子は人畜無害の代表であった。当代一の美女としてその地位を不動にキープしなくてはならない末姫にとって、肉親の王太子はそれをする必要性がないと思っていたからだ。そして末姫はどちらかというと人工的な天真爛漫さがあったが、兄は生まれながらに王子というただそれだけで全てを手にしていた天然の純粋さがあった。母后が姉二人を生んだ後どうしても王子がほしいと祈り続けて待ち望んで生まれているため、それは国を挙げての大騒ぎであったようだ。結城の一族だけあって、端正な顔立ちでその柔らかい外交のためにアズマに下山するとほほ笑みで国中の女たちを魅了した。
そんな彼が、4年前シャンバラ神州の姫巫女と婚約したと分かったときは、国中の女が泣き伏してしまったという。シャーマンとして高い地位にあったこのハーゼ姫が、神託を受けたというのだ。
ハーゼ姫が結城の王子に嫁ぐようにと
※※※
謁見の間に現れた王太子夫妻に、その場にいた全員が動揺を隠しきれなかった。なぜ今わざわざ末姫にこの場で巫女妃が会いたがっているのか、そのことでもざわついた。
入室した皇太子妃、今はハーゼと言う名前から馳姫と呼ばれている彼女はほとんどの公の場に姿を現さない。王太子は同伴者の必要なパーティには、ほとんど妹の三姫を同伴させていた。三姫が降嫁してからもそれは続き、皇太子夫妻の不仲説もあがっていたほどだ。そんな彼女は、白っぽい結城の装束をきて、頭にはベールをかけ顔を覆った状態での登場であった。
初めて馳姫をみる人も多く、本当に王太子妃なのか疑うものまでいるようだった。数えるほどだが会って話したことのある末姫は、この場を取り繕うのは自分の役目と思っているかの如く、本人である馳姫に挨拶をした。
「義姉上様、ご機嫌麗しゅう。わざわざ私のためにこちらまでおいでいただきうれしく思います。」
そういう末姫にたいして、ただ頷いたあと、扇で口元を隠しながら王太子に耳打ちをした。
「陛下、馳姫が発言の許可を願い出ていますがよろしいですか。」
そういう王太子に、陛下は少しため息をついた後、よいということを皇太子妃がしたように頷いて返した。
「す、末姫様…」
馳姫の声が思っているよりも軽やかなことに周囲の者たちはどよめいた。
「末姫様の運命を変える出会いがこの旅であったかもしれません。もしくは、これからあるのか。何かその予兆はありませんでしたか。」
神託なのだろうか。運命を変える出会いなどと言われても、この数か月初めてのこと尽くしでどこかで運命があったのかもしれないが全く見当もつかない。
「義姉上様…予兆ですか。」
末姫として思い当たることは、禁忌とされる神宮の森への立ち入りが真っ先に浮かんだ。運命を変える…罰が当たるということなのか禁忌を犯したことを指摘されたわけでもないのに末姫は冷や汗をじんわりかき始めていた。
「恐れながら…」
言葉に詰まる末姫に代わって話し出したのは、やはりヨハであった。
「殿下は、初めてのご公務で緊張されていて全てにおいて初めての出会いでございました。しかも玄朔国にて体調を崩されてからは社交も限られた方に絞られましたし、どの辺りに予兆があったのかは、側におりましたが私にはそういった力もなく分からず申し訳ありません。」
そう言って頭を下げた。それを見て、慌てて末姫も頷く。
「体調がすぐれなかったのでもしかしたらあったのかもしれない予兆を見逃したやもしれませんね。ただ、私は初めて姪御に会って『叔母上』と呼ばれました。今後も交流ができたら嬉しく存じます。」
調子を取り戻した末姫は、にこやかに答えた。それを聞いた王太子妃は、何かぶつぶつと言っているが全く周りには聞こえなかった。
「そうかそうか。姉上の御子にも会えたのだね。うらやましい。姉上に似てきっと美しいのだろうなぁ。私も会いたいものだよ。」
屈託のない笑顔でそういう王太子をヨハは冷ややかな目で見つめていた。




