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麗しき一族~張子の王子③~

 ヨハは、人間観察を得意としているが、この王太子だけはどんな人物かよくわからない。末姫は、人に愛されていると感じることで自己肯定感が高くなる女優型、三姫は優秀な姉や可愛い妹に引け目を感じていたが、こうときめたら譲らない頑固型、不敬ではあるが陛下二人にも思うところはある。王は慈愛には満ちてはいるが、内心あまり人に執着したくない歪んだ博愛主義型。王妃は上流階級者として育ち御妃教育を始めたプライドが強い。母としてよりも自分のために子を慈しむ自分第一主義型…。まあそこまで陛下たちとは個人的な話をしたことがないので、実際は違うかもしれないがとにかくヨハは人の言動をよく観察している。

 そんなヨハが、王太子のことは全くわからないのだ。幼い頃から両陛下に愛されこれ以上ないほど期待された人生。しかし、現実は圧倒的なカリスマ性を持ち、他国の所作や言語などにも精通していた大姫、武芸にも国際情勢や外交にも秀でていた仲姫とどう比べても実力が劣っている。周知の事実であったし、楽器演奏など芸事に長けた三姫、当代一の美貌と褒めちぎられあまり披露はしないがダンスが得意の末姫と下の二人にも、「これ」と言えるものがある中、王太子だけは何もかもが凡であった。むしろ、できないものも多く、上流貴族のたしなみとして楽器の一つでもと習ってはみるが、どうしても両手同時に同じようにしか動かない。弦楽器がよくないのかと打楽器も用意してみたが、リズムがとれない。武芸も仲姫のレイピアのようにしっくりくるものがあるかといろいろ試してはみたものの、教えるほうが気を使ってしまうほどセンスがなかったようだ。

 なのに、王太子は悔しいとか、できなくて泣くとかそういうことは一切ない。


 そうか、私には向いていないようだね。


と、にこやかにやることを辞めてしまうようである。できるまで、悔しくて何度も何度も練習しようという気も起きないようだ。王太子として日々忙しいので特に気にも留めていないと言われればそれまでであるが、王太子ならば、学問に精通し、外交や国のために尽力したり、武力で国を守りたいと思ったり、社交の場で演奏やダンスを披露したいと努力したりしたいと思うものではないのだろうか。しかし、できないことはやらないのだ。それに対して、両陛下も何度か注意をしたものの、秀でたものがすればよいとにこやかにご返答なさるようだ。


 しいて、王太子の得意なものをあげるとすれば、国中の女を射止めた気品あふれる笑顔であろうか。彼の笑顔は、末姫といい勝負である。そして、人の話をにこやかに聞いて、素直に喜んだり、褒めてあげたりすることができる。王太子の口から、人への悪意ある言動を聞いたことがない。ただ、だまって話をうんうんと聞くのだ。

 政治的腕力は全くないが、張子の虎のように首を動かすことができる。決定権はないが、同調することができる。秀でたものに味方することができることも確かに才能と言えば才能であろうか。自己主張しない王太子に対し、ヨハは優しいだけでは国は存続できないのではと感じているのだ。本来はどう思っているのか、全く感じ取ることのできない王太子のことを、優しいではなく不気味とすら感じてしまうのだ。


※※※

現在、奇妙なことが起きている。謁見の間に、結城の城に住まう王族が全員そろったのだ。特に、いつもは祈祷だとかなんとか言って、公の場にすら出てこない王太子妃がいる。この王太子たちは、仲が睦まじいと聞いたこともないが、不仲とも聞かない。これもまた奇妙な関係性である。結婚して3年はたつのに懐妊の話もでない。巫女なのに身ごもる神託も聞けないのかと心無いことをいう者もいたが、


「皆も知っての通り、妃はすごい巫女だからね。神託を受けているらしいんだけれど、今はそのときではないって言われているというんだ。」


と、にこやかに王太子が言うものだから、毒気が抜かれ謝罪をする。しかし、王太子は


「なんで謝るのさ、妃がすごい巫女だって認めてくれているんだろ?だから安心して纏うじゃないか。」

と更に言うのだという。

 優しいというか、おめでたいというか、ポジティブなのか考えなしなのか全くつかめないのだ。


※※※

 運命の出会いに思い当たる様子がないという末姫の答えに、ぶつぶつ言っている王太子妃が、悩んでいる。


「しかし、出会ってないとすると用心されたほうが良いかもしれないです。いずれ、運命が押し寄せてくるかもしれないから、覚悟だけしておくべきです。」


そう言って、末姫に言うと早々にもう役目が終わったと言わんばかりに祈祷に戻ると言い残し、謁見の間を後にした。残された王太子は


「妃は、いつも忙しいんです。赦してあげてくださいね。これも結城を思ってのことですし。末姫も、ご神託がでたということは、用心しておいて損はないよ。もしかしたら、用心することで大きな事が変化することもあるって前に妃が言っていたから。」


と、あわただしく帰った妃のフォローまでさりげなくしている王太子であった。


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