麗しき一族~張子の王子①~
なんとか、ガルダニアの王后である大姫と謁見することができた末姫一行は、数日の滞在をさせてもらい帰路についた。ガルダニア王にも一度拝謁したが、末姫を値踏みしているようにじろじろと見てきてなんとも嫌な感じであった。末姫は本山で守られるように生きてきたので、あまり良くない視線に良くも悪くも晒されたことがない。
きっと好感を持っていたが、姉上の手前それを出せないだけ
と末姫は持ち前の「皆私のことが好き」精神でこう思うことにした。あのねちっこい視線をそれ解決できるのは、純粋培養された末姫だけであろう。
あわただしく帰路についた一行が首都シルヴァリアを出るとき12月に入るところで、大雪にもなんとか間に合った。ガルダニア完全封鎖の前日に冬将軍の国をあとにした。国境を過ぎたところには、多くの傭兵たちが相変わらずうろついている。雪深い山道でテントを張って生活しているようだ。しかし、ガルダニアがもうすぐ封鎖するからには、不当解雇にあったというこの無言のデモも終わりを迎えるのであろう。彼らは見かけない御車をじろじろ見ているのがわかるため、更に馬を走らせた。末姫は、神宮の森での揺れで多少のことは何も言ってこなかった。玄朔国の国境との間には、神宮から続く木々と渓谷がある。このあたりも正確には神宮の森の一部のようだが、ここを通らねば国交がまかり通らずこうして通ることが許されているようだ。傭兵崩れの輩もこの聖域化している場で、襲ってはこないであろうとヨハは考えていた。だからこそ、玄朔国に入って暴動をおこしていたのだから。
ヨハの機敏な行動のおかげで、玄朔国に戻ってくることができた。一行は約一か月の旅であったが、心が休まることなどなく何年にも感じた。特にヨハは自分の判断で神宮を抜けたことへの罪悪感もあり、命をつなげられたことに安堵していた。入国すると今か今かと待っていたサアカに末姫は抱きしめられていた。置いて行ったサアカにも末姫の無事を報告できて満足だった。
しかし、ヨハはいささかの疑問があった。一か月前にあれほど沈静化する様子のなかった傭兵崩れが全くいないのだ。サアカに尋ねたが取り締まりがあったわけではないようだ。
おとなしく引き下がったのか
でも渓谷付近にはキャンプまでしてまだ抵抗している様子があったのに。こちらだけはあきらめたのだろうか。
気になったヨハは宿屋に入って、マスターに毎年の様子を尋ねると
「そもそもあんな騒ぎになることなんてほとんどないですよ。あるとしても、数人が傭兵でもらった金で飲んだくれて騒ぎを起こすくらいで、あんな人数で大暴れするなんて幼い頃に一度あったかどうか…。」
ヨハは驚いて考え込んでしまった。宿屋のマスターはもう初老を迎えようとしている。何十年も起きていない暴動が起きていたのに、あっさりといなくなった。マスターの話だと、あまりにひどい暴動のため、地元の警察だけでは収まらず、都から兵を出してもらって沈静化してもらう寸前であったらしい。しかも、暴動を起こす度に補導される男たちはさほど怪我をしておらず、注意を促すと冷静に納得して翌日帰っていく。酒も煽っていない様子だったらしい。
まさか、我々を足止めするのが目的だったのか
ヨハは、後味の悪い様子であった。この後、襲い掛かられることもありうると思い、警戒しながら結城へと戻ることになった。しかし、拍子抜けくらい何も起きず、本山へは年末には着くことができたのだった。
本山に帰ると、末姫は両陛下に報告のため挨拶をしに謁見の間に向かった。正式な国際交流も初めて、そもそも国を出たのも、本山を出たのも初めての末姫にとっては大冒険であったため、末姫は誇らしい思いで両陛下が来るのを待った。
しばらくすると、結城国王である父と王后である母がそろって現れた。途中トラブルがあったことももちろん知っている上で、臣下の手前、障りない長旅への労いを父王は末姫に伝えると、母后が
「末姫が無事であることが一番である。ゆっくりされよ。」
とほほ笑んだ。お礼を言って立ち去ろうとした時に、謁見の間にもう一人現れた。
「妹姫が大冒険から帰ってきたのだろう。私にもぜひ労わせてほしい。」
と、何の先ぶれもなく現れたのはこの国の王太子。末姫の兄であった。
天真爛漫に振舞うことがあっても末姫は嫌われぬために礼を欠くことはしないようにしている。兄の突然の行動に驚きはしたものの、深々とおじきをして
「まあ兄上様、わざわざこちらにいらしてくださったのですね。後ほど伺おうと思っておりましたのに。」
可愛い妹を演じながら末姫は言った。
「疲れているのだから一度に済ませたほうがいいだろう。それに、今どうしても末姫に会いたいと言ってきかなくて。」
兄は、そういうと右手を挙げて従者に扉を開けさせた。すると、ほとんど公の場に現れない巫女姫である王太子妃が入室してきたのだった。




