麗しき一族~凛冽の大姫⑤~
ガルダニアでの生活は、大姫にとって想像しているよりも過酷であった。結城で、総領姫として、一目置かれていた大姫にとって初めて味わう「男尊女卑」という感覚であった。
何をどうされたわけではない。葉雫にもさんざん事前教育として言われてきたことだったが、結城の姫がガルダニアに来た!というお祝いムードは、入城したときだけであとは、どうでもいいと言わんばかりの感覚であった。
それは、国民も、貴族も、自分を望んでいたはずの王族も、伴侶となった王太子もであった。
しかし、大姫はこんなことで屈する弱い姫ではない。誰よりも高い誇りを持っている。
それほど望まれていないなら、周りが望むようにすればいい
ガルダニアは、軍事国。あまり女性が表立って行動することを良しとはしていない国柄でもある。そこから社交の場や慈善事業など、葉雫のアドバイスを元に前に出すぎないように気を付けながら人脈をつけていった。
気が付けば10年が過ぎていた。美しく気高い大姫は今や押しも押されぬ王后陛下である。正直に言えば王様よりも国民の支持は高いかもしれない。いろいろと辛いことはたくさんあったが、今挨拶に現れた末姫に今後の不安となるようなことをいうわけにもいかなかった。
「思えば、そなたを『妹』としてちゃんと愛した記憶がない。本来ならば総領姫として幼いそなたにするべきことはあっただろうに。」
滞在期間は数日しかなかったが、オリガが葉雫に指導を受けている間、二人はお茶を楽しんだ。大姫は、末姫がいた記憶はあれど共に過ごした思い出はない。それは、姉の話をきょとんと聞く末姫もまた同じである。
「今や、結城の末姫と言えばこの大陸で知らぬものはいないほど有名になったのだから、輿入れした後、その真価が問われることになる。結城での生活は今思い返しても楽しいものばかり。輿入れをしたらそうではないかもしれないが、結城の王族であるという誇りだけは大切にしなさい。」
奥歯にものがつまったような遠回しの言い方であったが、最初で最後の姉からの助言をした。末姫はあまりピンと来てはいないようだったが、そんな様子に大姫はくすりとほほ笑んだ。
「母上!」
突然、高い声が室外から聞こえる。振り返ると随分と愛らしい姫君が立っている。髪の毛は柔らかい栗毛であったが、顔だちが大姫に似ていた。大姫は愛おしそうにてを頬に差し伸べた。
「この子は、私の娘です。」
そういうと、その娘は幼いながらにカーテシーをしてほほ笑んだ。
「初めて御目文字致します。ガルダニアの妙星と申します。お会いできて光栄です叔母上様。」
末姫もカーテシーをした後、はっと気が付く
「ミョウセイとおっしゃるのね。もしかして…」
大姫は、愛娘の髪の毛を手漉き、耳にかける。
「この子には、結城の父上にお願いして星の文字をいただいたのよ。結城の血脈を誇りに思ってほしくて。」
この時、「結城の血脈」という言葉に、末姫はピンとくることはなかったが、この話をもっと深堀しておけばよかったと後々後悔することになろうとは思ってもいなかった。




