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麗しき一族~凛冽の大姫④~

 父が即位し、王の娘として輿入れをすることになった。王の孫娘としての輿入れより聞こえがいい気がするのがせめてもの救いであった。迎え女官としてやってきたヒルダとは、最初全く意思疎通が取れず、大姫は結城の総領姫としてのプライドがあり親し気などになれなかったし、ヒルダはヒルダで事務的な部分が強く名前を授けることなどできなかった。ヒルダは、大姫と一回り以上年が離れていて、結婚し子供もいるらしい。そんな女性が迎え女官に選ばれて他国に御妃教育に来るということも信じられなかった。


 家族に対して何の感情もないのかしら


 口にはしなかったが、大姫はヒルダと仲良くなれるとは思わなかった。冷たそうな雰囲気を纏い、授業中大姫への指摘もフォローするというよりは、すぐに正そうとすることを優先していた。もう少し友好的にしてくれてもいいのに、その隙も与えてくれない。負けん気の強い大姫は、弱音など見せず優雅に御妃教育をこなし、訂正されたところは絶対次に指摘されないようにした。


 ある日、珍しく一人で仲姫の様子を見に行った帰りに、結城の女官たちとは全くつるむことのないヒルダが、大姫の住まう東の館の陰でひっそりとかがんでいるヒルダを見つけた。


 何をしているのか隠れてみていると、ヒルダは胸元からペンダントを取り出し、中の写真を見ているようだった。


 何をしているの


 大姫が声をかけると、まさか声をかけられるなどと思っていなかったのか、ヒルダの背中が跳ね上がった。大姫は驚いた。振り向いたヒルダは、泣いていたからだ。

 ヒルダの横に座り、ペンダントの写真をのぞき込むと優しそうな男性が子供を抱えているものだった。




 私の夫と娘です。



 ぽつりぽつりとヒルダは話し始めた。

ガルダニアの裕福とまではいかないが、中流貴族の出のヒルダは、幼馴染の男性と結婚した。相手の家は、男子は皆軍隊へという一族だったため、例外なく陸軍に入隊しており遠征などでなかなか家に帰ってこないこともあったが、幸せだったという。

 転機を迎えたのは、ヒルダが娘を出産して間もなくたったころ、子煩悩の夫は遠征に行くのも、娘と離れがたく後ろ髪を引かれる様な思いで行っていた。いつものごとく帰りを待っているヒルダの元に、夫が重傷を負っているという一報が入る。夫の一族とともに不安を抱えながら、軍病院へ赴くと命は助かっているときき安堵したが、彼の右足がもうないことを知った。

 健康が取り柄だと言っていた夫はふさぎ込み、心を病み死が纏わりつくようになった。もちろん軍は退役した。それを面白く思わない夫の実家から離れ、ヒルダの実家に身を寄せたが母がおろおろするばかりで、今後の家計のことや夫を生かすためにどうしたらよいかずっと考えていた。夫は娘といるときだけ、昔のように生きている笑顔をしていた。そして、ヒルダは、迎え女官になる覚悟を決めた。子供のいる自分には関係のない話と思っていたが、体裁ばかり気にする夫の実家が、御妃教育を嫁が担うと知れば納得すると思った。また、軍で夫がもらっていた給金よりもらえると聞き、家計も安泰である。鬱々とした夫に事務仕事を探せなどと言う辛さを考えるなら、自分が犠牲になったほうが良いと思ったというのだ。仕事中の怪我での退役なのだからそれなりのお金がでたが、一生食いつないでいけるわけでもない。ガルダニアも結城と縁組することは悲願であり、大姫の輿入れに万全を期したいところで、迎え女官にする女性を貴族から選考したいが、推薦された女性たちは決め手に欠けており難航していた。そこに、ヒルダが立候補したのだ。貴族としてのマナーも教養も申し分ない。夫と子供のために立候補するくらいだから、途中で投げ出すこともない。歳が大姫よりも一回り離れているのが懸念事項であったが、指南という意味では少し上であるほうがよいのではないかと言うことになり、迎え女官に決まったという。夫は、自分のために犠牲になってほしくないと最後まで言ったらしいが、ヒルダは必ず帰ってくるから元気になってくれと笑って家を出てきたそうだ。この城に来てからは、時々この人気のない場所で写真を眺めてエネルギーチャージをしていると言った。


 話を聞いて大姫は、ヒルダの細腕で抱えている家族の重みに驚いた。本来なら異国に一人で乗り込んできたヒルダにもっと温かく接して行くべきだったのに、ヒルダの淡々とした振る舞いに、自分から歩み寄ることが負けた気がして距離を取っていたのも事実だったからだ。もっと話を聞いていくべきだったのに自分の傲慢さに耐えられず目を閉じた。

 大姫は、深々と頭を下げた。ヒルダは驚いたが、これから一生を尽くしてくれる女官に対してもっと親身になるべきだったと伝えた。


 それから二人は、たくさんの話をするようになった。淡々としているのは相変わらずであったが、一人で戦っているような壁のようなものは感じなくなった。そして、大姫はヒルダに名を授けることにした。

 「禎雪」の雪から縁のある名前を考えるとなると、冬か気象に関係するものとなる。ヒルダの家族への慈愛が葉に溜まった一滴のように深いものに思っていたので「葉雫」とした。緑に関係するので、仲姫にも了承を取った。ヒルダは、賜名に恐縮していたが名前の意味を知り、喜んだ。ヒルダが葉雫となってすぐ、大姫は輿入れに向かうこととなった。


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