麗しき一族~凛冽の大姫③~
結城現王の第一子、大姫の名前は禎雪という。皇太子時代に婚姻してすぐ皇太子妃が懐妊し、元気に誕生した大姫は国中から祝福された。祖父に当たる前王もそれはそれは可愛がっていた。母である環妃は、王子ではなかったことに多少残念な気持ちはあったようだが、その玉のように美しい姫を見て、他国に出すのにふさわしい姫となるよう幼い頃から英才教育を行っていた。環妃は、次に産んだ仲姫にも同様に英才教育を行ったが、仲姫以上の教育を大姫に行ったし、それに大姫も成果として応えていた。
仲姫が、愛されているのか不安を覚えたのもこのあたりが原因の一つであることは間違いない。
乳母をつけているのにもかかわらず二日と空けずに様子を見に行き、勉強の様子を見に行く。今日の成果はどうであったかを大姫に復習として確認をする。これの繰り返しであった。
仲姫のところに環妃が訪れることは、一か月に一度は必ず行くことになっていたのに、二か月に一度あったかどうかも疑わしいくらいだ。
そんなことも全てが大姫の人格形成に影響していた。自分は誰より愛されている。この国を背負っていくのは自分である。という思いがツンと澄ました様子に見えていた。たまに妹の仲姫を交えてのお茶会などは、明らかに母が自分にばかり構うもので、仲姫を哀れにすら思うほどであった。
これほどまでに皆から愛されていて自分は、もしかしたら他国に嫁ぐのではなく女王になるのかもしれないとすら長らく思っていた。それは、弟王子が生まれてからも密かに思っていることであった。
王子は、母環妃が産んだ三番目の御子であった。母の喜びようはひとしおで、なんだか自分の場所を取られるような気がして、大姫は素直に喜べなかった。しかし、祖父王からの愛情は亡くなるまで一番であったことは間違いなく、古参の臣下から絶大の信頼を得ている。才覚を比べても王子に負けていることなど一つもなかった。大姫から言わせば、王子はその立場に胡坐をかいたただの凡人である。もっと努力をして、王子が王太子になることは間違いないと思わせてほしいとすら思っていた。
その点、仲姫に対して見方を改めていた。母の英才教育の傍ら剣術の稽古も進んでおこなっている。鬼才と言われる師匠からも褒められていると聞く。王家の姫という立場を鼻にもかけず、ただひたすらに努力する妹姫に関心していた。だからこそ己も研鑽に努めようという思いに至っていた。次第に、環妃がいなくても二人で会う機会が増えていったのは、王子の登場によるものだったのかもしれない。
相変わらず誰よりも気高く、美しく、気が強く、己にも周りにも厳しいまさに冬の雪のような大姫に縁談が舞い込んできたのは、15を迎えた頃。それは祖父王の体調が思わしくなくなってきた頃であった。
誰よりも気高い大姫を、王太子にと押す声が強かったのもあり、大姫は成人の儀である裳着のあと、すぐに婚約者を決めずにいた。これは、祖父王の判断であったに違いない。
この国を思うのであれば、大姫か仲姫に王太子に就いてもらうのがよいに決まっている。
成長した王子は相変わらず顔だけ美しい王子で、古参の貴族の中には大姫や仲姫の立太子を望むものも密かにだが確かにいたのである。祖父王はその思いを汲んでしばらくは様子を見ていたのだ。しかし、体調を崩し政務に当たるのもままならない状態になった祖父王は、譲位することを決め、それと同時に愛孫の嫁ぎ先を考え始めた。
北の大国ガルダニアは、閉鎖的で軍事に秀でた国。結城との国交はあるものの、そこまで友好的な国ではない。そんな国に大姫を嫁がせるということに祖父王は胸を痛めたが、大姫を他国に輿入れさせることは以前から考えていたことだった。
大姫は、この話を病床の祖父王から見舞いの際に聞いた。あわよくは末は女王に…と考えていた夢が一瞬で砕かれたのだった。




