麗しき一族~凛冽の大姫①~
北の大国ガルダニアは、正に冬将軍の治める国であり既に立冬が過ぎており、諸国との貿易などが制限されてきていた。なんとか、国境入ってすぐの宿場町で身支度を整えなおし首都シルヴァリアへ向かった。石壁で高く囲われたシルヴァリアに入ると、その要塞都市からは想像できないほど、美しい街並みであった。雪深いから、屋根は鋭角に近く規則正しく家が並んでいる。
おとぎ話の世界のようだ。―
しばし役目を忘れて街並みを見入ってしまっているオリガが慌てて末姫を見ると、本山から出たことがなかった末姫のほうが衝撃的だったようで目を丸くさせていた。輿入れするとはいえ、まだまだあどけなさも残る年頃の末姫の年相応の反応にオリガは心が温かくなった。
神宮の森でヨハと二人で小川に向かった末姫を遠くから眺めていたが、末姫は泣いているように見えた。幼い胸を不安でいっぱいにしていることは百も承知であるし、ヨハとの関係性は、自分なんかよりずっと長く信頼できうるものであることもよく理解している。
理解しているが、これから先共に過ごす自分にいつかヨハのように心根を離してくれる日が来るのだろうか。なんとなくオリガは不安になるのであった。
玄朔国の両陛下はガルダニアに向かう末姫に毛皮のショールを人数分プレゼントしてくれた。いくら結城で準備してきたとはいえこの極寒を知らない末姫一行はこれに皆包まれている。自分の持ってきた防寒具でいいと最後まで突っぱねていたヨハも、さすがにシルヴァリアに入ってからは片側から斜めに装飾品のようにしれっと着こなしていた。
しばらくするとやっとシルヴァリアの城が見えてきた。白さが映える壁とクリスタルのような柱が印象的な門扉をくぐり、いよいよ入城する。
末姫は緊張していた。ほとんど会った記憶のない自分の一番上の姉に会う。末姫よりも一回り年上の仲姫よりも3歳上と聞いているからもう三十路を迎え終わっている。末姫がもの後頃着く頃には、ガルダニアの皇太子妃として嫁がれていた。末姫がかろうじて覚えているのは、ほとんど交流のなかったガルダニアへの嫁入りに忙しそうにしている後ろ姿だったような気がする。幼い末姫を抱きしめることは、仲姫はしてくれたような気もするが、大姫にしてもらった記憶はない。何か意地悪をされたわけではないが、いつも愛を向けられて生きてきた末姫にとって、今まであった人の中で数少ない「苦手」に分類される人なのである。
これほどまでに広い必要性があるのかわからないほど広い謁見の間に通される。外の雪に負けないくらい白い部屋で、例のごとく、謁見するのは末姫、ヨハ、オリガの3人だ。長い時間待たされていく。
本山は、木材などの使用で温かみのある城だ。その分このシルヴァリアのしろは白く無機質でなんだか更に冷え込むような城だった。待てば待つほど、芯まで冷えてくる。怖い姉君というのと、この建物の冷たさに身震いし始めた末姫の手をそっとオリガが手に取って温める。末姫の手はもう感覚などないのでないかと思うくらい冷たかった。
温かいわねー
つぶやく末姫にオリガは、ほほ笑む。
私の手はいつも温いのでございます。鬢胡はここほど寒いところではございませんが、いつでも人間カイロになりますのでお申し付けくださいませね。
緊張していた空気が、オリガの一言で少し和らいだ。末姫の顔は、オリガと話したことで少し笑顔が戻っていた。和んだ空気の中に、扉が開き、従者の声がする。
間もなく王后陛下がご到着なさいますー
その言葉に、和らいだ空気が一瞬でまた冷える。オリガの手を放し先頭に立つと冷え冷えとする。しかし、オリガの温かさが末姫の心に残り、この謁見を成功させようと末姫は決意を新たにした。




