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麗しき一族~深窓の末姫④~

末姫が輿入れの挨拶をしに他国に出るー。

つまりこれは、末姫が生まれて初めて本山を出るということである。本山の中で輿には乗ったことがある。しかし長い間御車に揺られることなど一度もなかったのだ。今回行くのは、結城の真北に隣接する国王の叔母が嫁いだ玄朔国と末姫の大姉が嫁いだ北の大国ガルダニアであった。結城にとって南西側になる鬢胡に嫁いだ後、西側の諸国にも挨拶に行くことになるが、そちらよりも近いとはいえ、御車に何日も揺られていくことになる。末姫の一行だと分かれば、物珍しさから物見の行列ができてしまう。

 もちろん、そんなことはわかりきっているので、通常開くことのない本山の北側の窪みにある勝手門からそっと出ていくことをヨハは、国王に願い出ており許可が下りていた。そのことを知って、オリガは胸をなでおろした。サアカは、何が起きてもいいように万端の準備を始める。それは、結城の両陛下と姉兄以外の親族にほとんどあったことのない末姫が困らないように、そしていつも通り「深窓の姫君」としてどの国にも納得してもらえるようにという配慮に他ならない。当の末姫は、初めて見る景色にそわそわしていた。


 紅葉も本山から見るものとは、違って見えるのね

遊びではないが、外に出たことのない末姫にとって全てが新しく目移りするものだった。


 玄朔国の首都は南側にあり、比較的行きやすいとはいえ一週間かかる。早馬なら半分くらいの日数で着くだろうが、末姫の体調を慮ってゆっくり進むのだ。途中決められた宿屋に宿泊するが、できうるだけ末姫の御姿を見せないように細心の注意を払いながら宿屋の一等室へと進む。一日中、座りっぱなしで御車に揺られた末姫は崩れるように横になる。目覚めた後、時間をずらして軽い夕食を取られる。さすがに女給は本山の宮女を連れてくるわけにいかず、末姫と会うことになるが、その辺はさすが末姫で理想通りの深窓の姫君を演じるわけである。気持ちがいっぱいでといって食が進まない様子も見せ、部屋に帰ってサアカの用意してあるお菓子か、待機者用の夜食を食べる。


末姫様は、初めての旅でお疲れだったが、庶民の食事も口にされてほほ笑まれたー


緘口令が引かれていても、いつかはまたこの話も広まっていくことは間違いがない。こういったことの繰り返しでなんとか、宮廷に到着をした。


 本山は、他を寄せ付けない圧倒的な佇まいであるが、玄朔国の宮廷は平城で街との協調性を感じる様子である。奥の間まで通されるときは、末姫と警備のためなのに武装を解かれたヨハと迎え女官であるオリガの3人だけが通された。サアカは自分も行きたい様子ではあったが、他国でもめ事を起こしてもいけないと弁え、身を引いた。


 深々と頭を下げ、両陛下のお出ましを待つ。オリガは末姫に王族として至極当たり前なこういった礼式の細かいところから教え込んだので、末姫はきちんとした結城の姫君に見えることに安堵した。昔から教養、礼式の学習はしていたそうだが、厳しいとなるとサアカ母子が授業に割り込んでいたため、完全な習得とはなっておらず、全てが中途半端になってしまっていた。オリガのことも最初は厳しくないか目を光らせていたが、オリガはサアカとの関係性を構築したり、他国での末姫の評判にかかわることをサアカに諭したりしたことで、学習するときは茶々を入れないようにサアカは席を外すようになった。そのおかげで今の末姫があるのだ。


 玄朔国の両陛下は、どちらもお優しそうな様子で、特に王妃はさすが結城一族なだけあって、すでに孫がいるとは思えないほどの麗しさであった。王妃は愛おし気に自分の姪孫に話しかける。


 噂にたがわない様子である。目元が幼き頃の父上に似ているだろうか。我が子の中に年頃が釣り合う王子がいれば是非我が国に輿入れしてほしかったが、仕方がない。それにしても、まさか鬢胡とは… お幸せになりなさい。


そういうと王妃はほほ笑んだ。やはり、新興国に対して快くは思っていないのか…。とオリガは胸を痛めが、深々と拝礼をした。


その夜、祝賀会が執り行われた。末姫は、公の場で姿をさらすことがほとんどなかったため、来場した人々はまさかあの当代一の美貌姫が他国に訪れているとはと驚き、聞きしに勝る美貌だと称賛した。末姫は、彼らが望む美しい姫としてそこに鎮座しほほ笑むのであった。両陛下は、連日もてなしてくれ、宴は3日も続いた。


祝賀会が終わり、初めての公の場での高揚感があったのか、末姫は体調を崩した。両陛下は、ご心配され滞在を許可してくれた。数日の療養の後回復し、両陛下にお礼を伝えた後、更なる北国ガルダニアに向かう。玄朔国の国境を通らせてもらう算段も付いていた。

しかし、明日は国境というあたりで暴動が起きてしまった。玄朔国に入ってきたガルダニアの元傭兵たちの暴動のようだが、結城の一行だと分かれば何をされるかわからない。しばらく様子を見たが、騒ぎが沈静化する様子がなかった。ただでさえ末姫の療養で遅れてしまっている。ヨハは焦っていた。ガルダニアは、雪の大国。確か暦で立冬に入った頃から、国への入国に制限がされ、大雪の頃には首都が完全閉鎖される。今、11月の半ばに差し迫っている。予定では、11月の半ばから下旬にガルダニアに滞在して戻ってくることになっていたが、殊の外玄朔国での時間が長すぎて予定よりも1週間以上遅れた上のこの暴動…。この騒いでいる傭兵たちも、首都封鎖の事前準備として切られた者たちだろう。ガルダニアの首都は中心部にありこのままでは11月のうちに謁見することはできない。今年の大雪は12月5日と聞いている。それまでにガルダニアの首都を出なくてはならないのだ。


思い悩んだ末、ヨハは誰もが禁じ手としている「神宮の森」を抜けることを決めた。


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