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麗しき一族~深窓の末姫③~

 末姫の予想は的中した。頭はそれほど良くはないとは思うが、こういった自分をどう見せるかということだけは勘が働くのだった。本山の人々は


あの軍事大国鬢胡に嫁ぐ哀れな美姫―


人身御供に捧げられるなんて、美しいが故に目をつけられたのだー


末姫欲しさに、大国が攻め入るところを姫が身を投げ出して国を守ったー


 などと、称賛し褒めちぎられていた。きっと彼女のこの想いに気が付いていたのはヨハ…ただ一人だったのかもしれない。この騒ぎを聞いてサアカは、「私はどこまでも姫様の御味方です」と気丈にふるまい、他の女官どもはただただ泣き崩れていた。そんな様子を見て、ヨハはあくまで心の中だけで、鼻で笑っていた。


 婚約して一年が経過したころ、鬢胡から迎え女官がやってきた。けばけばしくなく、かといって陰気でもない。末姫は自分の教育係として、そして引き立て役として申し分ないと思い、愛想を振りまいて迎え入れた。名前を授けることなど出会ったその日にするなんてあまりないケースであったが、浮かれた末姫は彼女に織鐘と名付け、オリガと呼んだ。


 オリガは決して愚かではない。そして、こんな知り合いのいない場所に一人で乗り込めるほどの勇気を持った鬢胡の女性である。オリガは接しているうちに、愛らしいだけではない末姫の実情を目にしていった。

 最初は、文化の違いなのかとも思っていたが末姫は美しいだけで何もできないのだ。朝食の後、末姫は長椅子に座ってすっと右手を出す。白魚のような何も固くて重いものを持ったことのないであろう長く美しい指に、サアカが食後の果実水を渡す。

 ほとんど飲み終わるとまた、グラスを持った手を前に突き出す。サアカがグラスを取り片づける。


 着替えの時は、いくつか候補を女官が持ってくる中で、サアカが末姫の顔色を見逃さずに見ていて、どれにするのか末姫が言わなくてもサアカが一つ取り出して準備をする。末姫が違うといったことがないのだから正しいのだろう。着替え終わった末姫は、毎日お披露目と言わんばかりに女官たちの周りを「どう?」と言わんばかりに回って見せる。その様子を熱狂的な信者の女官たちは褒めたたえ、それをサアカが満足げな顔で見つめる。ヨハはいつも目視したあと、窓から外を見ていた。


 とにかく、サアカがいないと生きていけない様子であった。いや、そういうように育てられたのかもしれない。ある日、オリガは休憩しているとヨハと出会った。意を決してヨハに


 サアカ様の末姫への愛情を超えることができる人は現れるでしょうか。


と、嫌味にならないように言葉を選びながら尋ねたことがあった。すると、ヨハは驚いた顔をしたが少し考えた後、


 彼女の末姫に対する思いは、母や姉のものに近い。しかし、親子や姉妹が必ずしも良い影響を与えるかと言えばそうとは言い難い。オリガはそこに対抗しないほうがいい。家族では見えないことがあるのだから。


 そうヨハは、誰にも聞こえないくらいの小さな声でつぶやいた。そして、同じような質問をサアカ本人にもしたことがある。すると、彼女は当然のような顔をして、


 私は、至極当たり前に崇める相手を崇めているだけ。そうしたい人がいるならばきっと私のようになるだろうし、私を超える方もいずれでてきてもおかしくはないのではないのかしら。


とほほ笑んだ。そのほほえみは、ぞくっとするほど狂気に満ちているようにオリガには見えたのだ。もうすぐ、末姫は親族が嫁いだ国々に挨拶をしてまわることになる。それが終わるといよいよ輿入れを迎える。この稀代の深窓の姫君を無事に本国に迎え入れることができるのか、オリガは不安を抱えた。迎え女官として、鬢胡の風習や儀式の仕方など一通りは伝授したが、鬢胡は軍事国家でありいつもではないが張り詰めた空気が漂うこともある。そんな中で、自分が主と決めたこの姫君はやっていけるのだろうか。嫁ぐときに、サアカは輿入れに同行し、あちらに留まることを公言しているが、冷静沈着な男ヨハは結城に留まるということを先日、末姫が伝えてきた。ヨハの冷静さが末姫の周りからなくなるということは、サアカの妄信的な献身が更にひどくなる可能性がある。

ヨハは、最初こそオリガに対し敵意のようなものを向けてきたが、最近はさりげなく末姫が気乗りのしない学習であっても意欲を持たせるように促すなど、オリガが本山で暮らすうえで殊の外助け舟を出してくれていた。そんな彼が鬢胡には着いてこない。サアカまではいかなものの、自分が自分なりのやり方で姫を守るしかないのだと、オリガは自分自身に言い聞かせるのであった。


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