麗しき一族~深窓の末姫②~
末姫は、自分の容姿に自信があった。長姉と次姉は10以上年が離れていたため疎遠であったが、すぐ上の姉三姫とは幼いころよく遊んだ。三姫は確かに美しい姫であったが、陰気な感じがして、確実に自分のほうが愛らしく天真爛漫で誰からも好かれている。そして、国王も王妃も末姫のところに足しげく通っていたことが、何よりも一番かわいらしい姫であることだと信じて疑わなかった。
だからこそ、自分のイメージを崩したくないという思いは人一倍強かったし、たいしたことないと思われないためにも美貌に対する執念は誰よりも強かった。鏡の前でほほ笑む練習を寝る前にすることや、所作の学習はいかに美しく見せるかということを念頭に置いて取り組んでいた。
そんな末姫はどんな相手と結婚するのか、末姫が成人の儀である裳着を済ませた後、本山でもアズマでもこの話題で持ちきりだった。
美しい末姫は、手元に置くため重臣の家に降嫁させるのではないかー
末姫の輿入れ先に名乗りを上げた国々が戦争をしかねない様子なのではー
どこかに嫁入りしたら、嫉妬狂いの人々が押し寄せるので、国王は生涯御傍に置くのではないかー
どれも、末姫が待ち望んでいた素晴らしい噂ばかりで、末姫は一層自分磨きに余念がなかった。嫋やかな黒髪、透き通るような白い肌、人形のような長いまつげと大きな瞳、どれをとっても文句のつけようがなく、満足して寝所に入るのだ。
事態が急変したのは、一年半前だろうか。国王が末姫に私室に先ぶれもなくやってきた。末姫の目から見ても国王に疲労が見られた。しかし、美しい顔立ちのせいか、それもまた儚げで国王の美しさを増長させているようにも見えた。勉学よりも美容に力を注いでいた末姫は、その日も新しい美容液を試そうとしていた時で、美しい成人男性の登場に女官たちは色めき、そして国王であることに畏怖の念を抱き、部屋を後にした。
長椅子に腰かけた国王は、末姫が何をしていたのか、突然来たことを謝るなどぽつりぽつりと末姫に語りかけた。いつもと様子がおかしいことは明らかだった。国王は末姫から目を離すことなくただ、ただ、見つめている。愛情からのか、美しく育った娘の成長を眺めているのか、それは末姫にはわからなかったが、父王に見られることは嫌ではなかった。むしろ、姉兄よりも一番可愛いのだと更なる自信につながる。
国王の座る長椅子に末姫はそっと座り、父王の手を取る。どうしたのですかと上目遣いで話をする。深いため息をついた国王は、末姫に向かって
お前の腰入れ先が決まった。鬢胡という、軍事大国だ。ここまで大きな国交はなかったけれど、あちらのたっての願いで結城の姫をと言うのだ。
と更に小さな声で話し始めた。鬢胡…聞いたことがある結城とは違って歴史の浅い新興国、末姫は、正直納得はしていなかった。「絶対に私を」と欲しがる人がいるはずなのに、結城の誰でもいいような立ち位置で私を推挙するのはおかしいと思ったからだ。王妃は、この話に反対しているという。末姫は、俯いて考え始めた。そして、父王に向かってほほ笑んだ。
その話お受けいたします。
父王は、驚きで口を開けたままぽかんとしてしまった。何故なら嫌だと言われ泣かれると思っていたからだ。すんなり受け入れたことに拍子抜けした国王は、末姫に何故決心したのか尋ねると、
結城の王族として恥ずかしくない決断をしただけですわ
と、末姫はほほ笑んだ。
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末姫は思ったのだ。自分を指名してこないことに対していささかの苛立ちはあるが、残っている姫は自分だけなのだからそれもまた分かった上での申し込みであろう。そして、あれだけの大国であれば、伝統ある国の姫君を大事にしてくれるはず。そして、周囲からは国のために身を捧げるなんと慈悲深い姫君なのかと女神として崇める人々へとてもよい条件であると思ったからだった。
あちらに行っても、きっと大事にされるに違いない
そう確信した末姫は、国王にしおらしい態度で答えたのだった。




