麗しき一族~深窓の末姫①~
朝、目覚めると小鳥がさえずり、爽やかな木々の香りがする。本山の頂上に君臨するこの城の西御殿の主は、窓からのそよ風にほほ笑んだ。
彼女は、結城の現国王の末姫に当たる。名前は「照鈴」。やんごとない人物の名前はそもそも口にしてはいけない。進んで知ることなどしてはいけない。なので周囲からは末姫と呼ばれることが多い。王妃の最愛の娘だと言われている。
そもそも、大切にされすぎているのか本山すら下山したことがない。いや、城も出たことがないかもしれない。
本山から出るときは輿入れの時だ
と王妃から重々言い聞かされてきた。姉姫たちは、外交のためにアズマの迎賓館に行くこともあったと聞くが、それすら許されずに今日まできた。なので、麗しき結城一族の中で一番の「美貌を誇る深窓の姫君」として国の内外を問わず現末姫の噂は絶えなかった。
末姫の周りには、彼女を女神のように崇める女官がいつも蔓延っている。筆頭が乳姉妹の小銅ことサアカが女官の配置を決めている。サアカは、子爵家の出で生まれた時から末姫に仕えていた。歳は末姫よりも4つ年上であった。彼女の弟が生まれたときに母が乳母として召し上げられた。母は子爵の身の上で乳母として召していただいたことに責任をもって勤めていた。王妃もそんな母を重用し、また王妃自身今までの御子とは異なり、殊の外末姫の養育に力を注がれていた。サアカが召し上げられたのは、王妃のたっての頼みであった。その頃は本名である佐奈として童出仕を始めた。名前をもらったのは末姫が6歳を迎えたころだったか、王妃が早く佐奈に名前をあげるように末姫に言ったのだ。
自分の名前に由来する名前を臣下に授けることで主従の強いきずなを作るのが結城のしきたりである。幼い末姫は、揺るがない信頼という意味を込めて銅の字を使うことを決めたが、まだまだ小さな佐奈に重すぎる名前だということで、小銅という舌を噛みそうな名前となり、末姫は「サーカ」とか「サアカ」ともっぱら呼ぶようになったのだ。理知的なサアカは、末姫によいと思われる人材を側に置く。彼女を崇拝している者たちを外側に置く。崇拝している者たちは、よいスピーカーとなって、本山にもアズマにも末姫の美しさが伝わっていく。
末姫の美貌に小鳥が寄ってきて、女神のようだったー
末姫の御声は軽やかでまさに鈴の音のごとき美しさ…
サアカの手腕で末姫のこの「当代随一の美女」というイメージが不動になったと言っても過言ではないのだ。
果たして実際はどうなのだろうか。事実、末姫は美しい。しかし、他の御子様と比べて群を抜いているのか…。そう思っている侍従も少なくないことだけは事実だ。
噂の一人歩き、とまではいかないが、サアカの戦略により末姫の評価が事実よりも上乗せされていることは事実であった。
しかし、誰もそれを否定しない。周りもそして末姫もだ。
末姫は、この「当代随一の美女」という肩書を幼いころから気に入っている。人にどう思われるか、どうしたら好かれるか、そんなことばかりを考えて生活してきた。いかに愛らしく見えるか、どうしたら良い噂が更に広まるのか。サアカがスピーカーとして選んだ女官たちが求める末姫像を崩さないように生活をしているのである。
人前では、コロコロと笑い、優しい言葉をかける
そんな天女のような自分に、末姫は酔いしれているのだ。そんな浅はかな末姫を與鋼ことヨハは、呆れつつもイメージを保つことに仕方なく協力している。
本当は、ただのわがままなお姫様が何のためにこんなことをしているのか
そう思っている。わがままも無邪気といえば聞こえがいい。ただの傲慢も天真爛漫と言ってしまえばそれまでだ。末姫は、乳母とサアカとヨハこの3人によって守られてきたイメージの上に君臨する「深窓の姫君」なのだ。
そして、迎え女官として側使えとなった織鐘ことオリガもこの二面性のある末姫の言動に最初は動揺を隠しきれなかったがすっかり慣れ、末姫の素を知る限られた一人となったのだ。




